怪しいツアーで必ず立ち寄るお店

近所のスーパーマーケットや日帰り入浴施設などで、抽選に当たって、無料のバスツアーに招待された、という経験はないだろうか。

旅行業界には無料のバスツアーを専門とするミステリアスな会社が存在する。その手の会社の営業社員が、スーパーや入浴施設に「お客様サービスとして無料ツアーの抽選会を実施しませんか?」と商談を持ちかける。それに同意した店が抽選会を行なう。

そうして選ばれし人たち(?)が、ツアーに参加するという次第である。ツアーではそれなりの昼食が出て、有名な観光地も見学する。それでいて無料なのだから、参加者からすれば、こんなにウマい話はない。

ふつうに考えれば、その旅行会社は採算がとれるのかと、いぶかるはずである。しかし、そのような心配はとんとご無用だ。もちろん会社はしっかりと儲けが出るような仕組みとなっている。

かくいう私は、そういう怪しいツアーの添乗業務をしたことがある。ツアーでは必ず、宝石店(毛皮店、布団店の場合もある)に寄る。滞在時間は1時間半ほど。セールストークにたけたスタッフの説明の後、買いものタイムとなるのがパターンだ。

高額商品のため、ほとんどの人は買うそぶりも見せない。ところが中には宝石好きの人や多少興味のある人もいる。そういう人が話に乗り、目の前にキラキラ光るものを並べられたら、相手の思うツボ。目が光り出して、キラキラのデュエットとなってしまう。

リングやネックレス高級小売ストア
写真=iStock.com/Kwangmoozaa
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当選者の100%が女性なワケ

旅行会社は宝石が売れれば恩の字である。売上げに応じて、宝石店からの見返りがあるからだ。だが仮に売れなくても、それはそれで良い。

というのも抽選に当たった人がひとりで参加すれば、たしかに無料である。ただし同伴者をつれてくれば、その人はタダでは旅行できない。割高な代金を払うことになる。当選者は100%、女性である。

彼女たちはたいていひとり参加をいやがって、友人や夫君をつれてくる。だから建前は無料であるが、実態はかぎりなく有料に近い。またツアーでは、いろいろな土産物店に寄る。店からは売上げ、または人数に応じて、金銭のバックがある。さらに車内販売で業者からの手数料も入る。

ちなみにそういうキックバックの仕組みは、大手旅行会社の募集ツアーでも、基本的には同じである。たいてい車内販売や土産物店の売上げの10%くらいが旅行会社に支払われている。

タダ専門の会社も、大手の会社も、結局はカネ次第なのである。その証拠に無料ツアーはほとんどが土産物店か、それに類した店を中心に回るよう旅程が組まれている。