1候補に1億5000万円というのは選挙活動資金として破格

買収事件の舞台となった参院選(2019年7月)で、自民党が拠出した選挙活動資金の1億5000万円が、河井被告の買収工作に使われたかどうかが大きな焦点となっている。

法務省
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1候補に1億5000万円というのは選挙活動資金として破格だ。菅首相との親密な関係があったから実現したことだろう。なお1億5000万円のうち1億2000万円は、国民の税金である政党交付金だった。

裁判で河井被告は「1円も買収に使わなかったにもかかわらず、要らぬ疑念を抱かれ、自民党にも迷惑をかけた」と語っていたが、かなり疑わしい。

記者会見で菅首相は「支出は当時の自民党総裁の安倍前首相と幹事長の間で行われた。検察に押収されている関係書類が返還され次第、自民党の公認会計士が監査を行ってチェックする」と説明している。

菅首相は自民党の現在の総裁である。支出はだれの指示によるもので、どのように使われたのか。1億5000万円の使途を明確にかつ詳細に私たち国民に説明する責任がある。大半が税金なのだからその責任は重い。

新型コロナ対策や東京五輪の開催でつまずく菅政権は、内閣支持率が低迷を続けている。今回の河井被告に対する実刑判決はさらなる打撃となった。次の衆院総選挙にも大きな影響を与えるだろう。

このままでは菅首相は「アベ1強」の轍を踏むことになる

菅首相は東京五輪を成功させ、それをバネに自民党総裁選と衆院総選挙に打って出ることで、首相続投を狙っている。

しかし、私たち国民は振り返ってよく考えなければならない。菅首相は憲政史上最長で、「アベ1強」といわれた安倍前政権の落とし子である。官房長官としてアベ1強の政治権力を何度も目にしている。安倍前首相に対し、閣僚として内閣に組み入れてもらうために多くの国会議員がひれ伏し、強い官邸主導で霞が関の官僚も手玉に取った。首相に対する「忖度」という言葉もよく登場した。

菅首相は「政治的に強くなれば怖いものなどない」という考えを持っているのだろう。だから周囲の意見を無視してまで頑なに東京オリンピック・パラリンピックを断行しようとするのである。

「もり・かけ問題」と揶揄された森友学園と加計学園の不祥事、安倍前首相に近い人々だけが優遇された「桜を見る会」、政治と金の問題の発覚による主要閣僚の相次ぐ辞任、そして今回の実刑判決を受けた河井被告の選挙違反事件。いずれもアベ1強という政治権力の歪みから生まれたものだ。

沙鴎一歩はここで菅首相に申し上げたい。首相の職を続けるというのならば、アベ1強の轍を踏むことだけは避けてほしい。