ソウル中央地裁判決は3年前の大法院判決と正反対

6月7日、韓国人元労働者(元徴用工)らが日本企業に賠償を求めた訴訟で、韓国のソウル中央地裁が原告の請求を却下した。元徴用工の訴えは退けられ、門前払い扱いされた形である。

国際法上、まっとうな判決で、日本政府の主張にも近い。しかし、だからと言って日本は手放しで喜んでばかりではいられない。韓国内では反発の声も上っている。韓国の世論や今後の韓国司法の動きに警戒し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の言動にも注視する必要がある。

ホワイトハウスのイーストルームで、記者会見に臨む韓国の文在寅大統領(=2021年5月21日、アメリカ・ワシントンD.C.)
写真=CNP/時事通信フォト
ホワイトハウスのイーストルームで、記者会見に臨む韓国の文在寅大統領(=2021年5月21日、アメリカ・ワシントンD.C.)

元徴用工訴訟をめぐっては、2018年に大法院(韓国最高裁)で新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工業に賠償を命じる判決が確定している。今回のソウル中央地裁の判決はこの大法院判決とは正反対の判断だった。同種の訴訟で地裁が最高裁と正反対の判決を下すような事態は異例で、日本では考えられない。

大法院判決は日韓請求権協定と矛盾する偏った判決だった

原告の訴えを却下したソウル中央地裁判決と、日本の企業に賠償を命じた大法院判決との判断の違いを簡単に説明しておこう。

ソウル中央地裁判決は、元徴用工とその遺族ら85人が日本企業16社を相手取り、1人当たり1億ウォン(985万円)の損害賠償を求めた訴訟に対するもので、日韓の請求権問題を「完全かつ最終的に解決した」とする1965年の日韓請求権・経済協力協定に基づいて「訴訟を起こす権利の行使は制限される」と判断して訴えを却下した。

これに対し、大法院判決は「個人の慰謝料の請求権は日韓請求権協定には含まれない」と判断し、新日鉄住金と三菱重工業に損害賠償を命じた。

しかし、この判断は同協定が日本と韓国の国民がともに相手の国家・国民に対する全ての請求権に関し、「いかなる主張もできない」と定めている点に大きく矛盾している。その意味で大法院判決は偏った実におかしな判決だった。