消えたはずのラジオ的なサービスが復活している

もちろんSpotifyには特定のミュージシャンの曲だけを集めたプレイリストや、アーティストの曲の売り上げランキングに基づいたリストもある。一方で、ユーザーの好みを踏まえて、ベースとなったアーティストだけでなく、その周辺を含んだ「緩い」リストを作成するサービスを提供し、それを「ラジオ」と呼んでいるわけだ。

アナログレコードやカセットテープといった古いメディアは、「選択の自由」を求めるユーザーの希望に応えてCDやMD、そしてオンデマンドやサブスクリプションモデルに進化し、ユーザーは選択の自由度を高めていった。

ところがそのオンデマンドやサブスクリプションの中で、それまでは否定されてきたブロードキャスト(放送)的なサービスが、やはりユーザーにサービスを利用させるための手段として復活してきている。なおかつそれが「ラジオ」と呼ばれている。これは興味深い現象といえないだろうか。

ユーザーは「選んでもらわなければ」、選べない

SpotifyやNetflixを見れば、音楽であれ動画であれ、現代のコンテンツビジネスでは、視聴するコンテンツを顧客に決めさせるのではなく、サービス提供側が顧客の好みを予想し「決めてあげること」が重要になってきていることが分かる。つまり、顧客が自分で選ばなくても大丈夫なサービス設計がなされ、顧客も自分で決めるより、決めてもらわなければ利用できないのだ。

音楽を愛する人々は、カセットテープの時代には求めてやまなかった「選曲の自由」が実現したとたん、その自由から逃避し、「選択からの自由」を求め始めたわけである。

さらに現代のレコメンド機能は、かつて人気だったラジオのランキング番組のように「たくさんの人が見ているから、あなたもどうぞ」といった単純なものではない。それぞれのユーザーの視聴傾向を踏まえ、各ユーザーの好みに最適化されたコンテンツをレコメンドするシステムであり、そのために用いられているのが機械学習やAIといった新技術である。

ミクロ経済学では、私たちの価値観、好き嫌い、好みの幅は「選好(リファレンス)」と呼ばれる。ユーザーひとりひとりのリファレンスを、ビッグデータを用いて分析し、膨大なコンテンツの中から選択・リコメンドする。技術の進歩とともにこうしたサービスが実用レベルとなり、一斉に採用され始めたのである。