退職金をどのようにして増やして老後に備えればいいのか。作家の鳥居りんこさんが投資初心者向けの銀行窓口攻略法を聞くシリーズ第2弾。ファイナンシャルプランナーの藤原未来さんは「お勧め金融商品の提案を待つのではなく、あらかじめある程度のポートフォリオを組み、自分から提案したほうがいい」とアドバイスする――(後編/全2回)。
銀行の看板が並ぶ通り
写真=iStock.com/fatido
※写真はイメージです

68歳のひとり暮らし男性が招かれた「銀行VIPルーム」という密室恐怖

前編から続く)

——他にもお金の素人が陥りやすい投資の失敗事例はありますか?

【藤原未来(ファイナンシャルプランナー)】最近は、退職金向け「資産運用セット」のような商品を巡るトラブルも頻発していますので、ケース2として紹介しましょう。

【ケース2 B氏(68歳) 首都圏在住 ひとり暮らし】
B氏は3年前に40年間勤務した会社を定年退職し2500万円の退職金を元にリタイア生活に入った。退職金が振込まれるとまもなく銀行から連絡があり、「とってもお得な特別キャンペーンのご案内があるので一度支店の窓口にお越しください」とのこと。

さっそく銀行の窓口に行くと担当者にVIP専用室という小部屋にご案内され、ご丁寧に支店長まで挨拶に現れた。B氏も前から資産運用には興味があったのでいい提案であれば是非お願いしたいと言うと「待ってました」の勢いで特別キャンペーン商品である「資産運用セット」について腕利き担当者によるマシンガントークが始まった。

内容は退職金のうち2000万円を半分に分けて1000万円を指定の投資信託に預けるだけでもう半分の1000万円の3カ月定期預金の利率が通常0.002%のところ何と5%になる超お得な商品とのこと。

1000万円の0.002%では税引後およそ50円の利息にしかならないが5%では税引後およそ10万円になるという話で、B氏もそれはいい話だと前のめりになった。

さらに前のめりにさせたのは、もう半分の投資信託1000万円についてで、これも大評判の好配当株式の毎月分配型商品がお勧めで、その理由が毎月なんと約15万円の分配金が受け取れるとのことだった。

これは先ほどの定期預金の利息よりも金額的に魅力的であることに加え、期間も3カ月どころか保有し続けている間じゅう分配金を受け取れるとのことで、少ない年金の足しになると完全に乗り気になり、すぐに手続きをした。

しかし、高収益な特別キャンペーン商品に喜んでいられたのはほんのつかの間だった。

毎月15万円だった分配金は半年後には12万円に減り、その1年後には9万円にまで減ってしまった。それどころか、元本自体も当初1000万円だったのが2020年3月には新型コロナショックでおよそ750万円にまで一気に下がり、現在も回復はせずに下位安定してしまっている。これでは何のために投資したかわからず、B氏もうなだれるばかり。

また、B氏は気がついていないが、実はこの投資信託の購入時には3.3%の手数料が引かれていて1000万円のうち33万円は最初に差し引かれ、引かれた後の金額から投資が始まっている商品であった。

これは特別金利5%の特典に誘われてしまった悪い例と言えましょう。

B氏はまさかの事態に立ちすくみ、欲をかいて慌てて飛びついてしまった自分を責めると同時に、銀行にも不満をぶつけたいところですが、かの腕利き担当者も支店長も転勤してしまい今はぶつける対象も失ってしまって泣き寝入り状態です。