「人間、死ぬまで、命はあるんだよ!」

それは、短い言葉であったが、奈落の底を彷徨っていた一人の人間にとっては、まさに魂に響く言葉であった。

それは、次の二つの言葉であった。

「そうか、もう命は長くないか。
だがな、一つだけ言っておく。
人間、死ぬまで、命はあるんだよ!」


「過去は、無い。
未来も、無い。
有るのは、
永遠に続く、いまだけだ。
いまを生きよ!
いまを生き切れ!」

筆者は、この2つの言葉によって、大切なことに気づかされた。

たしかに、その通り。

医者から「命は長くない」と伝えられ、その絶望の中で、まだ、命はあるにもかかわらず、心が、もう死んでいた。

そして、毎日、毎日、「どうして、こんなことになったのか」と、過去を悔いることに時間を費やすか、「これから、どうなってしまうのか」と、未来を憂うることに時間を費やしていた。そのため、かけがえの無い人生の時間を、この「いま」という一瞬を、精一杯に生きてはいなかった。

この禅師の言葉によって、その自分の姿に気づいたとき、筆者の心の奥深くから、一つの覚悟が湧き上がってきた。

「ああ、この病で、明日死のうが、明後日死のうが、構わない!
しかし、この病を悔いること、憂うることで、
このかけがえの無い時間を失うことは、絶対にしない!
今日という一日を、精一杯に生きよう! 精一杯に生き切ろう!」

目標を達成する街の若者
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覚悟を定めた瞬間、生命力が湧き上がってきた

そして、この覚悟を定めたとき、筆者は、「病を超えた」のである。

もとより、それは、「病が消えた」わけではない。

病の症状そのものは、それから10年の歳月、続いたが、心が「病に囚われなくなった」のである。そして、この覚悟を定めた瞬間から、不思議なほどの生命力が湧き上がり、その生命力が、最後は勝ったのであろう、いつか、この病も消えていったのである。

この「生死の体験」は、天が筆者に与えたものであろう。それゆえ、健康を回復し、元気に活動する現在も、仕事や生活で危機や逆境に直面するとき、必ず、心の中に一つの思いが浮かび上がってくる。

「天の導きが無ければ、あのとき死んでいた。
それを、こうして何十年も生かして頂いた。
それだけでも、本当に有り難い」

そして、その思いが浮かび上がってくると、目の前の危機や逆境に正対して取り組んでいく勇気が湧き上がってくるのである。

実際、38年前、あの病気のどん底で、あの絶望の中で、「あと一日、生かして頂きたい」と願い続けたことを思えば、いま、どのような苦労や困難がやってきても、「命取られるわけじゃない!」と、腹を据えて向き合っていける。