「予算がないと研究できない」が常識だったが…

基礎研究は本来、大掛かりな資金設計が求められる。実現化の見えている応用研究や、再生可能エネルギーのように国家戦略に関わる研究領域は、大きな予算がついて、産学連携でプロジェクトが進められる。

今年の初めに、老化細胞を選択的に除去するGLS1阻害剤が、さまざまな加齢現象や老年病、生活習慣病を改善させることを、東京大学医科学研究所が証明した。老化細胞の代謝特異性を標的とした老化細胞除去による、新しい抗加齢療法の開発につながるかもしれない。つまり今後の研究成果次第では、人間の不老不死を実現する可能性がある。

僕自身、高く注目している研究だ。このような事案には、おそらく国から潤沢な資金が投入されるだろう。

ところが、現状では何の役に立つかわからないような基礎研究は、予算をもらうことが難しい。研究者がいくら熱意を持っていても、予算がつかなければ研究は続けられない。

通貨、疑問符
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また別の側面では、大学の研究室では、出身組織や派閥など複雑なしがらみが邪魔をして、優秀な研究者でも思うように仕事を進められない場合もあるだろう。

そんな基礎研究の実情に新風を吹き込んだのが、クマムシ研究者の堀川大樹さんだ。

企業からの出資を避けたクマムシ研究者

堀川さんは、NASAやフランス国立衛生医学研究所などに在籍したが、自分の意思でアカデミアを離れた。国や企業に研究費を頼るのではなく、自力でクマムシ研究の資金を稼ぐ道を選んだのだ。

書籍執筆、最新科学の知見を盛り込んだメルマガ、クマムシのLINEスタンプ、クマムシの観察キットのプロデュースなど、多様な方法でマネタイズに取り組んだ。企業からの出資では、どうしても忖度やしがらみが生じる。それを避けて、自分のやりたい研究が自由にできる環境を求めたのだ。

取り組みは成功して、彼は独自の文脈のクマムシ研究を進めている。組織からは生まれない、斬新な論文が発表されることだろう。

本当にやりたい研究があるなら、その魅力を広く伝えて支援者を募ることで、フリーで研究することは可能になったのだ。もちろんクラファンも便利に使えるだろう。

国内に支援者がいなければ、英語を必死に勉強して、海外へ発信すればいい。何にしても、最大限の努力や工夫を徹底的にやりきることが必要だ。

お金がないなら、お金を集める努力をする! そんな当たり前のことをしないで、「ない、ない」と嘆いてばかりいるのは、どう考えてもおかしい。