「何の援助も受けたことはない」
さらにフィッシュマンの上記論文によれば、ETIMのリーダー、マフスームは2002年のラジオインタビューで、タリバンもアルカイダも中国との摩擦は望んでおらず、(それが真実であるかどうかは別にして)ETIMは「ウサマ・ビン・ラディンとは全く関係がなく、何の援助も受けたことはない」と述べていた(*2)。
トランプ政権は2020年11月、ETIMを指定テロ組織のリストから除外。米軍によるウサマ・ビン・ラディンの殺害などで、アルカイダ自身の存在力が大きく低下したこともあり、ETIMとアルカイダの関係性を指摘する声は研究者や米政府関係者の世界からほぼ消えた。
今年発足したバイデン政権は、中国政府によるウイグルでの人権弾圧を正面から非難し、欧州やオーストラリアなど同盟国との多国間協調で中国に圧力を掛ける姿勢を見せている。さらにETIMを国際テロと結びつけ、それがアメリカにとっても安全保障上の脅威であると吹き込んできた中国自身が、今度はアメリカから最大の安全保障上の脅威として名指しされるようになっている(*3)。
イスラム諸国の現体制打倒に目的がシフト
9.11同時多発テロ事件以降、アフガニスタンでアルカイダは組織的に弱体化した一方、各地に分散化するフランチャイズへと変化していった。反米主義のイデオロギーに変化はないが、その活動は遠く欧米諸国を狙う国際テロから、より攻撃しやすいイスラム諸国の現体制を転覆させ、原理主義的なイスラム国家の樹立を狙うものへとシフトしている。イスラム過激派に影響力をもつ論客の中には、中国の台頭やアフリカ進出が、アメリカのプレゼンスを相対的に低下させ、そうした活動への追い風になると主張する向きもある(*4)。
しかし中長期的には、中国がイスラム過激派の標的になる恐れは高まっているといった方がいい。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」によってアジアやアフリカ、中南米や南太平洋など各地で影響力を高めているが、それに抵抗・反発する「反一帯一路」的な動きもみられる。当面は中国本土を狙ったテロを実施できる態勢にはないとしても、先に述べたように中東やアフリカ諸国の現体制を打倒することが当面の目標になれば、それらの体制を経済的にバックアップする中国の現地権益が、攻撃の対象となる可能性は十分にある。