パキスタンではすでに「対中テロ」が何度も発生

反一帯一路運動の多くは市民による抗議デモだが、武装勢力によるテロ行為として現れるケースもある。例えば、2019年5月にパキスタン南西部のグワダルで起きた、パキスタンのバルチスタン解放軍(BLA)による高級ホテル襲撃事件(筆者も以前本誌で取り上げた)はその典型的な例だ。

つい最近(2021年4月21日)も、パキスタン西部バルチスタン州の州都クエッタにある高級ホテル「セレナホテル」で爆発物を用いたテロ事件が発生。5人が死亡、10人あまりが負傷した。このホテルには在パキスタンの中国大使が宿泊していたが、爆発当時はホテルにいなかったため難を逃れた。

事件後、イスラム過激派組織「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が犯行声明を出した。今回の声明には中国権益を狙ったと明言する文言はなかったが、TTPが2012年にペシャワルで中国人観光客を殺害した際には、“中国政府がわれわれの兄弟である新疆ウイグルのムスリムを殺害していることへの報復だ”という声明を出したことがある。

北アフリカのアルカイダ系組織の声明

TTPの戦闘員たちはアフガニスタンでも活動し、アルカイダとも協力関係にあるというが、主な活動範囲はパキスタン北西部のワジリスタン地域だ。しかし、今回のテロ現場はそこから200km以上離れたクエッタであり、専門家の間ではTTPが活動範囲を広げ、インド洋に面するグアダルなどで中国権益への攻撃を続けてきたBLAとも関係を密にしているという声が上がっている。

ETIMらウイグル独立派をあまり支援してこなかったとされるアルカイダも、中国への攻撃を掲げたことがある。例えば、2009年7月に新疆ウイグル自治区の首都ウルムチで起きたウイグル騒乱の後、AQIM(マグレブ諸国のアルカイダ)は報復として北アフリカにいる中国人・中国企業を狙うとする声明を発表*5。2014年10月には、アルカイダのオンライン英語雑誌”Resurgence”に「東トルキスタンの10の事実」と題するトピックが掲載され*6、北京へのジハードが強調された。