「一帯一路」構想のもと、中央アジアや南アジア諸国、中東諸国やアフリカ諸国との経済的な結びつきを深めつつある中国。だが、国際安全保障やテロ情勢に詳しい和田大樹氏は「経済的恩恵から疎外された各国の若者やテロ組織の不満が、中国への暴力やテロという形で現れつつあり、今後もさらに増える恐れがある」と指摘する――。
武装集団による襲撃事件の現場検証
写真=EPA/時事通信フォト
2019年5月、パキスタン南西部のグワダルにある高級ホテルで起きた、武装集団による襲撃事件の現場検証。事件後、地元の武装勢力「バルチスタン解放軍(BLA)」が、中国人や外国人投資家を狙ったとする犯行声明を出した。

パキスタンで中国人がテロの標的に

昨今、新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、世界各地で中国恐怖症(シノフォビア)の「政治的感染」とも呼べる現象が観察されている。フランスやベトナム、韓国やフランスなど世界各地で、中国人はじめアジア系への差別や偏見事例、暴力事件やデモなどが発生している。

だが、それは今回に限ったものではない。中国が進める一帯一路を軸とする経済的影響力は、アジアや中東、欧州やアフリカだけでなく、中南米や南太平洋の島国にまで拡大しているが、それに対する「反一帯一路」的な抵抗や反発も各地で生じている。

その最も大きな事例が、パキスタンでのイスラム過激派による暴力的な活動だ。2019年5月、パキスタン南西部バルチスタン州グワダル(Gwadar)にある高級ホテル「パールコンチネンタルホテル」で、武装集団による襲撃事件が発生した。武装集団は、まずホテルの入口で警備員に向けて銃撃を開始し、その後ホテル従業員を人質に捕るなどした。銃撃戦は翌日まで続き、従業員4人と兵士1人が死亡、武装集団3人も殺害された。襲撃後、同州を拠点とし、パキスタンからの分離独立を掲げる武装勢力「バルチスタン解放軍(BLA)」が中国人や外国人投資家を狙ったとする犯行声明を出したのだ。

その前月にも同州で、カラチからグアダル港に向かっていたバスが武装勢力の襲撃に遭い、14人が殺害された。事件後、「Raji Aajoi Sangar」を名乗る武装勢力が、「身分証明書を確認し、兵士や沿岸警備隊員を殺害した」との犯行声明を出したが、BLAの一派だとみられる。