中国・武漢市で発生した新型肺炎が世界を揺るがしている。中国政府は武漢市を封鎖、海外への団体旅行を禁じるなど果断な対応を打ち出した。大阪府知事時代の2009年、新型インフルエンザ蔓延の危機に府内小中高校の「一斉休校」を決断した橋下徹氏が、感染症対策の実情をいま明かす。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(1月28日配信)から抜粋記事をお届けします。
写真=Avalon/時事通信フォト
中国の李克強首相、中国中央部の湖北省武漢にある武漢ジンインタン病院の最前線の医療従事者と話し合う=2020年1月27日、武漢

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僕が知事として経験した2009年の新型インフルエンザ「封じ込め」

地方政府である武漢市が初動対応に失敗した中国は、今度は中央政府、習近平国家主席が乗り出してきて、やり過ぎなくらいの強烈な対応をし始めた。

中国政府は1100万人都市の武漢市を封鎖した。武漢市から、そして武漢市に人が移動しないようにした。交通機関をすべて停止した。さらには湖北省全体の6000万人にも移動制限をかけているらしい。報道によれば、道路を本当に土盛りして封鎖しているとか。

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感染症対策で一番重要なことは、人と人の接触をできる限りなくすことだ。当たり前と言えば当たり前のことだが、これが実際、もっとも難しい。本気で人と人の接触をなくそうと思えば、全国民を自宅で待機させるしかないが、それは現実的には無理だ。そうなると、少なくても感染が広がっている地域の住民が、他地域の住民と接触することを防ぐしかなく、それがまさに地域封鎖というものだ。

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このような地域封鎖は、国民の自由・権利を著しく制限することになるので、国民の自由・権利を重視する民主国家においては、なかなかできない。

2009年春、世界中で新型インフルエンザが流行したが、それが日本に上陸するのかと日本中が大騒ぎになった。僕は当時、知事2年目。当初は、致死率が40%に上がると聞いていた。

なんと40%!!

ただ、これは後に専門家のみなさんから教えてもらったことだが、新型の感染症は、当初は全体の感染者数が把握できず見かけの分母が小さくなるため、どうしても致死率が高くなってしまう。しかし、だんだん真の感染者数が明らかになり分母が増えはじめると、致死率は自ずと下がってくる。つまり、「増えた分母×下がった致死率」の数だけ死亡者数が増えていくことになるのだが、致死率が下がるので死亡者数は爆発的には増えない。

ところが僕はこの点の理解が足りず、当時は致死率40%と聞いて、感染者の数が増えれば増えるだけ、致死率40%の値もそのままで死亡者数が爆発的に増えるものだと考えて、身震いがした。府庁の幹部も、後に致死率が下がることなどわかっていなかった。日本政府からも、致死率についての正しい情報の提供はなかったと思う。

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