対テロ戦争に追われるアメリカも黙認

当時、アメリカのブッシュ政権は国際テロ組織アルカイダとそれをかくまうタリバン政権の打倒に全神経を集中させていたこともあり、イスラム過激派の動きに非常に敏感で、専門家も含めアルカイダとの関連が少しでも疑われれば即国際テロの視点で考える風潮があった。中国は外交レベルで対テロ戦争に賛同しつつ、ETIMの国際テロ化を強調することで、国内でのウイグル系過激勢力への締め付けを正当化しようとしたわけだ。

ブッシュ政権はウイグルの人権問題を知りながらも、テロ抑止の観点から2004年にETIMを国際テロ組織認定リストに指定。中国当局による弾圧を黙認する結果となった。結果的にはそれが、今日のウイグル市民への人権侵害や弾圧にもつながっている。

ETIMは1997年に、ハッサン・マフスームとアブドゥカディル・ヤプケンという人物によって設立された。2003年に指導者マフスームがパキスタンで殺害されるまでの間、アルカイダやタリバンなどと協力関係にあったとされる(この点については、専門家の間でも意見は分かれる)。

同組織が関係するテロ事件としては、2013年10月の北京・天安門前広場における車両突入事件、2014年3月の雲南省昆明市にある昆明駅で発生した刃物による無差別殺傷事件、2014年4月の新疆ウイグル自治区ウルムチ市のウルムチ南駅における爆破事件などがある。これら事件で声明を出したのは「トルキスタン・イスラム党(TIP)」を名乗る組織だが、実質的にはETIMと同組織とされる。

ウイグル独立派の訴えを無視したウサマ・ビン・ラディン

しかし時間の経過とともに、対テロ専門家や米政府関係者の間では、ETIMとアルカイダの関係性に疑いを抱く見方が強まっていった。

例えば、ニューアメリカ財団などの米シンクタンクでフェローを務めるテロ対策研究者のブライアン・フィッシュマンは、2011年に発表した論文「アルカイダと中国の勃興:ポストヘゲモニー世界のジハード地政学(*1)の中でこう指摘している。「ウサマ・ビン・ラディンはアメリカを悪とすることに熱心なあまり、ウイグルの反乱についての情報を無視し、むしろ『中国はアメリカの真の天敵である』という見解を表明した」。ETIMがタリバン支配下のアフガニスタンでアルカイダの近くにキャンプを作り、軍事訓練を行っていたのは事実だが、アフガニスタンを拠点に中国へ攻撃を実施することはタリバンに禁じられていたともいう。