1カ月で800人の風俗嬢から相談が寄せられた

——どのくらいの数の相談がよせられたのですか?

コロナ以前の相談者は毎月60人から80人ほどで、1日10人を超えることはまずありませんでした。しかし、感染が広まりはじめた2020年2月に、風テラスが相談窓口を開設してから、初めて月100人に達しました。緊急事態宣言が出た4月には1日60人を超える日もあり、1カ月の相談者が800人以上にのぼりました。性風俗の収入に頼って生きている人が、それだけたくさんいたのです。

東京市街の空中写真
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風テラスのウリは、弁護士やソーシャルワーカーなどの専門家が時間をかけて、相談者の話をじっくり聞くこと。

けれども相談が殺到した結果、それができなくなってしまった。ライン通話で30分程度、情報を聞き取る。顔も見えない。身元を明かしたくない人がほとんどだから、名前も源氏名や偽名。ただ、スマホ越しに聞こえる女性たちの声色だけで、彼女たちがいかに追い詰められているかが、ひしひしと伝わってきました。

私たちは断片的な情報を聞き取り、生活保護や緊急小口資金の申請を案内したり、福祉制度や支援情報のURLをラインでお送りしたりしました。非常時だからこれしかやりようがないと割り切りつつ、もどかしさも感じていました。

「福祉や行政に頼るよりも、自分のことは自分でやった方がまし」

——それだけ性風俗で働く女性たちの間で、風テラスの活動が知られているわけですね。

風俗店の求人はネット上で行うし、女性たちもツイッターなどのSNSで出勤情報を投稿し、宣伝をする。彼女たちは常にネットにアクセスできる状況にいる。だから、ツイッターなどで、風テラスの活動を知った人が多いようでした。

コロナ期間中、未成年の女性から相談がありました。彼女は家出をして夜の町を徘徊はいかいしていました。私たちは、彼女の話を聴いた上で、最寄りの地域にある子どもシェルターを紹介できることを伝えました。児童虐待やネグレクトを受ける子どもを保護する施設に、一時的に避難して、今後について落ち着いて考えるという選択肢もある、とアドバイスしたのです。

でも、彼女は、子どもシェルターや児童相談所には、いい思い出がない。自分でなんとかする、とネット上で見つけた怪しい裏風俗の店に面接に行ってしまった。彼女は、家族だけでなく、学校や行政にも不信感を抱くような体験をしていた。そんな積み重ねが、福祉や行政に頼るよりも、自分のことは自分でやった方がまし、と考える素地そじになっていた。

意外に思う人もいるかもしれませんが、性風俗で働く女性は、困っても自分のことは自分でなんとかしなければ、と考える傾向があります。自己責任論を内面化していると言えばいいでしょうか。しかし自助では――自分の力だけでは、どうしようもできなくなった人たちが、風テラスを頼ってくれた。