風俗は究極の自己責任ワールド

——性風俗で働く女性の生活困窮に対して自己責任、自業自得と批判する声はよく聞きますが、彼女たち自身がそう感じているということですか?

そうなんです。性風俗はある意味、他者から自己責任を押しつけられるだけでなく、自分自身にも自己責任を強いる究極の自己責任ワールドだと言えます。

話を聞いていくと、子どもの頃から自己責任のなかで育ってきた女性も少なくありません。何かあっても親や周囲の大人は助けてくれない。トラブルに巻き込まれたり、問題に直面したりしても自分で解決するしかなかった。その結果、性風俗で働く選択をする……。罪悪感や後ろめたさからか「私が悪いのですが……」と前置きしてから相談をはじめる女性がたくさんいるのは、そんな環境で生きてきた影響かもしれません。

——性風俗で働くことに対する後ろめたさですか?

いえ、そこにいたるまでの背景やプロセスに対する後ろめたさだと思います。借金やホストの売り掛けなどをきっかけに性風俗で働きはじめた。困窮した原因は自分にある。人には頼れない……。そう考えているんです。だからといって、彼女たちが置かれた状況は、自己責任でもなんでもない。緊急事態宣言下の相談に対応していて、再認識したのはパニック障害や精神疾患を抱えながら性風俗で働く女性の多さです。

同時に、サポートを必要とする人たちがたくさんいる性風俗の世界に、福祉や医療の専門家がほとんど入り込めていない現状にも危機感を覚えました。

自己責任を問う前に社会のあり方を見つめ直す必要がある

そうしたさまざまな背景や問題を抱える相談者に対し、アドバイスや解決策を伝える前に重要なのは、相手の気持ちに寄り添って、話をしっかり受け止める姿勢です。

坂爪真吾『性風俗サバイバル』(ちくま新書)
坂爪真吾『性風俗サバイバル』(ちくま新書)

事情を聞き、精神障害者保健福祉手帳の取得を勧めたケースもありました。手帳があれば、障害者雇用枠で就労できます。性風俗以外の仕事をはじめるきっかけになるかもしれません。一方で福祉的な就労でえられるお金は、最低賃金ギリギリか、それ以下。性風俗では、少なくても時給換算で3000円は稼げる。だから性風俗が女性たちの選択肢になるわけです。

そもそも自分がどんな問題を抱えているのか、社会的にどんな立ち位置にいるのか、把握し切れていない人もいる。

自分が会社員なのか、自営業者なのか、意識せずに毎日出勤し、仕事をして、報酬を手渡される。確定申告と言われても、なんのことかわからない。

ただし、税金や確定申告のことなんて、公教育ではほとんど教えてくれないでしょう。生活保護もそう。自己責任を問う前に、生きていく上で大切な知識も教えず、必要な人に公助が行き届かない社会のあり方を見つめ直す必要があると思うのです。

(聞き手・構成=山川徹)
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