20代で起業し社長に就任

春奈氏はソニーを退職し、2005年にはジャパネットの人材開発を担う「ジャパネットソーシャルキャピタル」を設立。起業という形をとることで、将来はジャパネットから独立することも見据えた。そして社員1人1人の個性やキャリアを見つめ、グループ内の人事制度の構築などを手掛けることで、家族の会社の成長をサポートしようとした。

さらに2010年には、ジャパネットから独立した「エスプリングホールディングス」を立ち上げてソーシャルキャピタル社の業務を子会社化。合わせて広告代理店業務の会社も設立した。つまり、2020年にV・ファーレン長崎の社長に就任するまで、彼女は15年間社長として手腕を振るってきている。「突然経営を任された2世社長」とはワケが違うのである。

とはいえ、ジャパネットの子会社になった直後の2017年にJ1初昇格を果たしたV・ファーレン長崎にとって、明氏は功労者であり「顔」。どうしても「髙田明の娘」と見られることは避けられないが、学ぶべきところは学び、バランスを取りながらチームを盛り上げている。

2021年1月20日の、新体制発表会で。前列中央が髙田春奈氏
写真=V・ファーレン長崎提供
2021年1月20日の、新体制発表会で。前列中央が髙田春奈氏

父から学んだフラットな姿勢

ジャパネット時代から15年間一緒に仕事をする中で、父のコミュニケーション力やリーダーシップから得るものは大きかった。

「『人との接し方』は父から学んだものの1つです。クラブの社長だった時も目上の人から新入社員まで年齢に関係なく気さくに声をかけていましたし、サポーターにも『同じサッカーを楽しむ仲間』として接していました。そのフラットな姿勢は、無意識に私も踏襲しようとしているかもしれません。

スポンサーさんとの関係でも、年輩の経営者は父と話す方がスムーズでしょうし、若い経営者は私の方が近い存在ですよね。そうやってうまく線引きしながら一緒にクラブを盛り上げていけたらと思っています」

社長を退いた後の髙田明氏は「サッカー夢大使」という肩書で活動し、ホームゲーム全試合に足を運んでいたが、今季からは自身の会社「A and Live」(エーアンドライブ)としてオフィシャルパートナー(練習着スポンサー)に名乗りを上げた。

「最初は冗談かと思っていたんです。でも一応『じゃあ、営業担当から資料を持って説明に行かせるから』と返したら、本気だったみたいで」と春奈氏。「父は心底V・ファーレン長崎が好きですし、スポンサーとして試合に来ることを喜んでいる。本当にありがたいですね」