サッカー経験がない社長が、どう運営するか

髙田親子は、それぞれを尊重しながらクラブ運営に関わっている。とはいえ、娘は娘で立ち向かわなければならないこともある。Jリーグは基本的に男社会。広報や営業、ホームタウン活動などを担うフロントスタッフには女性も増えてきたが、監督やコーチ・選手は男性ばかりだ。その世界をサッカー経験のない社長が取りまとめていくのは、やはり簡単なことではない。

春奈氏にとって最初の難題は、昨年2020年末の手倉森誠監督(現ベガルタ仙台)の去就問題だった。2016年リオデジャネイロ五輪代表監督・2018年ロシアワールドカップ日本代表コーチという実績を引っ提げ、2019年に就任した指揮官は「2年以内のJ1昇格」を公約にしながら、2020年J2で3位に甘んじ、あと一歩でJ1を逃した。その彼の去就は、難しい判断だった。

「V・ファーレン長崎の組織では、親会社であるジャパネットホールディングスの社長を務めている弟(髙田旭人氏)が強化責任者になっているので、彼と強化担当者が中心となって判断を下す形を取りました。

ですが、私もクラブの社長ですから意見を言うべき立場にいます。手倉森さんは強いリーダーシップを持った方ですし、いいチームを作られたと思いますが、2024年に新スタジアムがオープンするまでにはJ1常連になっていなければならない。それを視野に入れると、もっと選手が自らアクションを起こせる組織にならないといけないのではないかと、個人的には感じていました」

新監督を信じて託したい

後を引き継いだ吉田孝行監督も、4月25日現在で9位とスタートダッシュは叶っておらず、今のところは芳しい結果を残せていない。通常はJ2の中から2チームがJ1に自動昇格し、3~6位がJ1昇格プレーオフ参戦に参戦、2チームがJ3に降格するが、コロナ禍の今季はJ1昇格が2チーム、J3降格が4チームという特別ルールが設けられている。最高峰リーグへの切符獲得は、いつもよりハードルが高いのだ。

「2021年こそ絶対にJ1」と意気込むクラブにしてみれば不安は尽きないが、春奈氏は「新監督を信じて託したいし、選手たちに寄り添って支えていきたい」という思いを強めている。

「吉田監督のキャリアが浅いこともあって、開幕前からV・ファーレン長崎はJ2の順位予想で下の方に位置付けられることが多かったと思います。でも誰だって最初からキャリアを持って舞台に立っているわけじゃない。だからこそ、みんなで支えなければいけないと考えています」

2021年1月20日の新体制発表会で挨拶する社長の髙田春奈氏
写真=V・ファーレン長崎提供
2021年1月20日の新体制発表会で挨拶する社長の髙田春奈氏