なぜこんなに変異型が増えるのか?
イギリス型、ブラジル型、南アフリカ型と新型ウイルス(SARS-CoV-2)の変異体が世界的に増えている。巷では「なぜこんなに変異型が増えるのか?」という声をよく耳にするようになった。
なぜなのか?
それは変異することが生物の基本だからである。
私たちの顔つきや、体格、性格がみんな違うように、すべての種類の生物に変異は見られる。その変異は次の世代に受け継がれ、つまりコピーされ、また世代をつないだ変異だけが生き残れる。進化生物学的に考えると、ウイルスに変異体が現れるのは当たり前だ。
変異と薬剤開発の繰り返し…
「農薬抵抗性」という言葉をご存じと思う。これも生物の変異がもたらす結果である。
私の専門は昆虫学なので、害虫防除の過程で生じた話に少しお付き合いいただきたい。夏になると害虫が増える。増える勢いがすさまじいと、人は農薬の散布に頼らざるを得ない。すると必ず問題になるのが、農薬に抵抗性を持った害虫のタイプ、つまり変異体が現れて農薬が効かなくなることだ。これが農薬抵抗性である。
抵抗性を持った害虫が蔓延すると、農薬会社は新しい農薬の開発に資本を投資する。やっと開発された農薬もまた撒き続けると、その農薬に抵抗性を持った変異体が現れ、多くのケースで害虫の抵抗性獲得と新たな農薬開発の「鼬ごっこ」が始まる。
薬剤に対する抵抗性と、薬の開発との「鼬ごっこ」は、農業害虫の話だけではない。世間でよく知られているように、病院の中で抗生物質に抵抗性を持つ病原菌が出現し、新たな抗生剤を投与しなくてはならなくなる院内感染菌もまた、製薬会社による新薬の開発と病菌による抵抗性獲得の「鼬ごっこ」を繰り広げているのだ。