人にネガティブなラベルを貼りつけ、論点をズラす

■洗脳テクA「ネーム・コーリング」

「ネーム・コーリング」は、特定の人や物にネガティブなラベルを貼りつける技法です。たとえば次のような会話があったとしましょう。

A「金持ちはもっと貧しい人たちにお金を分け与えるべきだ! いまは一部の人間が富を独占しすぎている!」

B「そうは言いますけど、あなたはこのあいだ高級な車を買ったばかりじゃないですか。そんな人がする主張は信用できませんね」

A「私の車と主張は関係ない!」

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これはAさんの言葉が正しく、「富の分配」と「高級車の購入」にはなんの関係もなく、それで主張の正否は判断できません。しかし頭でわかっていても、反射的にAさんの言葉に疑いを持ってしまう人は多いでしょう。大半の人が「お前が言うな!」と思ってしまうはずです。

このようにネーム・コーリングは相手の信頼性を下げる働きが強く、討論の場などでもよく見かけます。2020年のアメリカ大統領選挙で、民主党側が「トランプは汚い差別主義者だ!」と敵陣営をののしり、共和党側が「バイデンは卑屈な中国の犬だ!」と返したのもネーム・コーリングの典型的な例です。

不用意にネーム・コーリングに乗ってしまうと、こちらがどんどん不利な立場に追いやられてしまいます。もうひとつ会話例を見てみましょう。

A「近ごろウチの会社はモラルが乱れている。これを正すために、もう少しこまかなルールを定めようと思う」

B「いや、君みたいな『ダメ人間』に言われても誰も納得しないから、その提案は間違ってるでしょ」

A「僕のどこがダメ人間なんだよ!」

B「このあいだも遅刻したし、机の上も汚いしさぁ」

A「その遅刻は親戚の不幸があってしかたなかったんだよ! 机だってこの前は忙しかったからたまたま汚くなっただけ!」

B「いや、まだまだあるぞ。先週はゴミの分別を間違えてたし……」

Bさんが持ち出した「ダメ人間」の話題に乗ったため、Aさんは「自分はダメではない」という論点を主張し続ける展開になってしまいました。いったんこうなると、Aさんは不利な展開に追い込まれていくばかりです。

「ネーム・コーリング」への対処法

もし相手がネーム・コーリングを使ってきた場合は、次のように言ってみてください。

論点のズレを指摘する
=「いや、僕がダメ人間かどうかはルールの設定とは関係ない」

ネーム・コーリングを指摘する
=「ネーム・コーリングって知ってる? 特定の人にネガティブなラベルを貼りつけることなんだけど、いまの君がやってるのはまさにそれなんだよ。ネーム・コーリングをしているあいだは、ちゃんとした話ができないよ」

個人的におすすめなのは「ネーム・コーリングの指摘」です。ネーム・コーリングをしてくるような相手はそもそも論点のズレを認識できないことが多いため、一段上の視点から現状を説明したほうが効果的なことがよくあります。