読書は何の役に立つのか。日本興業銀行時代にバブル崩壊を経験し、森ビルCFO時代にリーマンショックを経験した堀内勉氏は「読書体験は人生の岐路に立たされた時に、一筋の光明になる。ビジネスリーダーこそ本を読んで、宗教、哲学、思想を真剣に学ぶことが大切だ」という――。

※本稿は、堀内勉『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)の一部を再編集したものです。

一夜明けたNY証取
写真=AFP/時事通信フォト
2008年9月15日、米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻から一夜明けたニューヨーク・ウォール街の証券取引所の取引場。ダウ平均は前週末終値比504.48ドル(4.4%)安の1万0917.51ドルと2006年7月以来の安値引け(アメリカ・ニューヨーク)

リーマンショックでは資金繰りに奔走した

2008年から始まる世界的な金融危機、世にいう「リーマンショック」が起きた当時、私は都市開発デベロッパーである森ビルの財務担当役員、いわゆるCFO(最高財務責任者)として、メガバンクや社債市場を相手に、1兆円以上に膨れ上がった負債をコントロールしなければならない立場にありました。

森ビルは非上場会社でしたので、主な資金調達ルートは銀行と社債市場しかありませんでした。東京都心に保有する優良不動産に膨大な含み益がありながら、みるみるうちに手元資金が枯渇していくのを目の当たりにして、恐怖と戦いながら資金繰りに奔走する日々でした。

その時に私の脳裏をよぎったのは、かつて自らが銀行員時代に経験した、1997年から1998年にかけての日本の金融危機でした。当時、私は、今はみずほフィナンシャルグループのひとつになった日本興業銀行(興銀)の総合企画部で、自己資本調達、格付け、投資家向けIR(インベスター・リレーションズ)を担当していました。

たった10年で世界が変わった「バブル崩壊」

1990年の株価大暴落から始まったバブル崩壊は、この頃にはもはや、なんとか騙し騙しやっていける段階を通り過ぎていました。これに加えて、当時の大蔵省(現在の財務省、金融庁)への過剰接待問題をきっかけに東京地検特捜部の捜査が各金融機関に入ったことで、日本の金融システムは雪崩を打ったように崩れ始めました。その過程で、北海道拓殖銀行や山一証券が破綻し、その危機はそれまで絶対的な信用を誇っていた大手銀行にも迫りつつありました。

今では信じられないかもしれませんが、日経平均株価が史上最高値の3万8957円を付けた1989年末のバブルピーク時の興銀の株式時価総額は、NTTに次いで(日本だけではなくて)世界第二位だったのです。少しテクニカルな話になりますが、企業の信用力を示す格付けについても、ムーディーズとS&Pという世界の二大格付け機関からそれぞれAAA(トリプルA)、合わせて6A(シックスA)という格付けを与えられ、世界最高の信用力を認められていました。それが、十年も経たないうちにここまで凋落ちょうらくし、追い詰められていくとは、想像さえしていませんでした。

この接待汚職事件は、当時の第一勧業銀行利益供与事件における、大蔵省の検査の甘さが総会屋(株主としての権利行使を濫用することで会社を脅して不当に金品を収受しようとする特殊株主)への焦げ付き融資の拡大につながったとして東京地検特捜部が捜査を開始し、都市銀行、長期信用銀行、大手証券会社などへと連鎖的に拡大していきました。