東京オリンピック・パラリンピックは本当に開催できるのか。ノンフィクション作家の木村元彦さんは「8割の人が中止や延期を望んでおり、日本人の心が五輪から離れている。ステークホルダー・エンゲージメントという考え方から読み解くと、2つの致命的な原因が見えてくる」という——。
分断の背景にあるもの
東京五輪の延期が決定して、ほぼ一年が経過した。「何が何でも開催する」という掛け声は勇ましくもそこに民意は無く、日本経済新聞の世論調査(2月1日付)では相変わらず回答者の約8割が中止か延期を望んでいるという。
本来、オリンピック好きと言われる日本の人々の心がなぜここまで五輪から乖離してしまったのか。
コロナ禍における日常生活の苦しさから、五輪の受益者である富裕層と、そうではない大多数の人々とのギャップが露見したことが大きい。「これは私たちが愛した五輪ではない」という意識が分断をもたらしたとも言える。
何が足りていなかったのかと考えるときに、私にはスポーツ法が専門の早稲田大学松本泰介准教授が発した「ステークホルダー・エンゲージメント」という言葉が最も腑に落ちた。松本氏によれば「ステークホルダー・エンゲージメント」とは、「プロジェクトの議論や意思決定のプロセスにおいて利害関係者の存在をそこに置かなくてはいけない」という意味のガバナンス論の専門用語だ。
「東京五輪のような膨大な税金を使った国家プロジェクトになれば、利害関係者は国民規模にまで及びます。ときに透明性という言葉も使われますが、単なる一方的、事後的な情報開示だけでなく、どう巻き込むのか、もっと広範な意味を持ちます。ところが、今のスポーツ界はいろんな決め事が、関係団体ではなく、ほとんど政治的な案件として、関係団体の目の届かないところで決定されて来ました」(松本氏)