開催国日本(東京都)に東京五輪を「中止」する権限はない
東京五輪の開催まで5カ月を切ったが、国民の心は東京五輪から離れているように見える。
読売新聞社が行った世論調査(2021年2月5~7日調査)では、「観客を入れて開催する」8%、「観客を入れずに開催する」28%と、開催に前向きな考えを持つ人が計36%いたが、「再延期する」33%、「中止する」28%と、6割を超える人が予定通りの開催に否定的な回答をしている。
緊急事態宣言の延長に加えて、2月3日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視ともとれる発言を巡るドタバタが国民の“いらだち”を増幅させたのは確かだ。その怒りの矛先が東京五輪にもぶつけられているような形だ。
「新型コロナが収束していないのに、開催は時期尚早」
「無観客開催、海外選手の隔離・追跡、医療体制の拡充といった対策をしたとしても、安心できない」
そうした気持ちは理解できる。だが、ここは冷静な判断が重要だと私は考える。
ルール上、開催国とはいえ日本(東京都)に東京五輪を「中止」する権限はない。決定権があるのはIOC(国際オリンピック委員会)で、東京都らは「考慮の要求」しかできない。
IOC、JOC、東京都の3者で締結した「開催都市契約」には、IOCは「本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合」には中止する権利を有すると記されている。IOCが中止を決めた場合、日本側は補償や、損害賠償を請求する権利を放棄することも明記されている。
東京都が開催拒否した場合はスポンサー企業への返金と違約金が発生
東京五輪・パラリンピックの大会経費は、大会が1年延期となったことで新たに2940億円が必要となり、総額1兆6440億円まで膨れ上がった。東京五輪が中止となると、日本側は経済的に大きな損失を被ることになる。それは、いずれ国民の生活にも大なり小なり影響を与える。また東京都が開催を拒否した場合は、さらにスポンサー企業(68社、総額約3500億円)への返金と違約金が発生する可能性がある。
2月19日に行われた先進7カ国(G7)首脳のテレビ電話会議では、新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の結束の証しとして今夏に安全・安心な形で東京五輪・パラリンピックを開催する日本の決意を支持するとの首脳声明をまとめている。
状況を俯瞰すると、東京五輪は開催される方向で進んでおり、東京五輪の中止を求めることは事実上できない。そうだとすれば、ホスト国であるわれわれ日本人は今、何をしたらいいのか。それは開催のための“準備”ではないか。