コロナと東京五輪の「両立」する手立てはないのか

「オリンピックのために、毎日毎日、練習してきて、これで出れなかったら何のためにやってきたのか……」

都庁
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かつて、こんな言葉を発したアスリートがいる。モスクワ五輪(1980年)の参加をめぐり、現在JOCの会長を務める山下泰裕ら23競技の選手・コーチ約100人が集まり、涙の訴えを起こした。しかし、同年5月24日、JOCはモスクワ五輪への「不参加」を決定する。いまから41年前の“悲劇”である。

ワクチンの接種が始まったとはいえ、まだまだ新型コロナウイルスに対しての恐怖心は強い。この状況下で、大きな声で「東京五輪を開催したい」とは言えない空気になっているが、東京五輪を目指すアスリートたちの“心の声”はどうだろうか。

東京五輪の開催が決まったのは2013年9月。アスリートたちは7年半前から東京五輪の舞台を目指して準備をしてきた。スポーツ選手のピークはさほど長くない。4年に一度のオリンピック。今回が最後のチャンスとなるアスリートもいる。自分の素直な気持ちを発信できず、開催されることを祈りながら、黙々とトレーニングに励んでいるアスリートたちも多いに違いない。

緊急事態宣言下でも必要に迫られて通勤電車に揺られて会社に向かう人は少なくない。それはコロナとの共存を図りながら、勤務先の企業や経済をまわしていくためだろう。東京五輪でも「両立」するための手立てが取れないだろうか。

徹底した感染防止対策で日程を終えた全豪オープンに学べ

現状、大会の運営方法で決まっていないことは多い。観客は入れるのは入れないのか。世界中から集まる選手や関係者をどのように受け入れるのか(一定条件を満たせば入国後2週間の待機免除をするのか)などを早めに決定することが重要だ。

参考になるのは2月21日まで豪州メルボルンで行われたテニスの4大大会、全豪オープンだ。新型コロナウイルス対策が徹底されたなかで全日程を無事に終えた。東京五輪とは大会の規模が異なるが、開催に向けてのヒントになることがたくさんあり、大会関係者は大いに学ぶべきだろう(※)

※編集部註:チャーター機で豪州入りした参加選手や関係者ら1016人に対して約2週間の隔離措置を義務付け/隔離期間中はコートでの練習は許されたが、時刻やパートナーを指定され、上限2時間という制限付き/紙のチケットを全廃し、観客はスマホに表示した電子チケットのQRコードをゲートでかざして入場。売店での支払いはカード限定にするなど、「接触レス」を徹底/開催地ビクトリア州のロックダウン(都市封鎖)発令に伴い、大会期間の途中の5日間を無観客で開催、など。

筆者は北京五輪の北京国家体育館(通称「鳥の巣」)でウサイン・ボルト(ジャマイカ)が男子100mで世界記録を樹立したシーンを目撃している。9万人の大観衆が熱狂して、スタンドにいたジャマイカ人は興奮して踊り出した。これがオリンピックなのかと衝撃を受けた。

東京五輪はいつものようなオリンピックの光景が見られないかもしれない。それでも、スポーツが持つ圧倒的なパワーを多くの日本人に感じてもらえるはずだ。1964年の東京五輪を経験していない世代にとっては、夏季五輪が自国で開催されるのは一生に一度ともいうべきビッグイベントだ。参加するアスリートだけでなく、多くの国民にとって“特別な夏”になるだろう。