近隣住民とのトラブル、労働事案、未知の病、気候変動、天変地異……あらゆるシーンで思いもよらない「想定外の困難」に遭遇する機会が増えている。危機を乗り越えるには対象について正しく補足・分析し、対処法を考えるだけでなく、「セルフコントロール」の力が重要だ。元陸将補の二見龍氏が上梓した『自衛隊式セルフコントロール』から、一般のわれわれも使える自衛隊式リスク対応のコツと技術を特別公開する──。(第1回/全2回)

*本稿は、二見龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。

なぜ自衛隊は危機に強いのか

自衛隊に入隊すると、今までの生活とはまったく異なる生活が始まります。時間を厳守する集団生活で、まずは自衛隊の「しつけ」事項が徹底的に叩き込まれます。それは、新隊員教育(6カ月間)の場合も、また将来の幹部を育成する防衛大学校(学生の4年間)でも同じです。

この間、規則正しい生活とバランスの良い食事、厳しい運動によって、今まで身体についていた贅肉ぜいにくを削ぎ落とし、戦闘行動に耐えられる筋肉を持つ身体へと鍛え上げられていきます。

同時に自衛隊で「躾」事項を叩き込まれる日々を通して、新人たちは生活のリズムとスピードを劇的に変化させ、集団生活、さらには集団行動を行える基礎を作り上げるのです。

日没時に敬礼する兵士
写真=iStock.com/Ozkan Ongel
※写真はイメージです

心身のOSを切り替える

自衛隊勤務に必要な人材を作り上げることは、今まで使用していたパソコンのOS(考え方、意識)とハード(身体)の両方を取り替えてしまうというほどの大きな変化といっても過言ではありません。

二見 龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)
二見 龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)

まず、丈夫な身体を作り上げることは、パソコン本体のCPU、メモリ、ハードディスクなどの「ハードウェア」を新型に切り替えることと同じ変化があります。

さらに「躾」事項、集団行動を徹底的に身につけることによって、いざというときに正しい判断と行動ができるように頭の中(OS)を切り替えます。加えて、集団生活、各種教育訓練を通じて、基本アプリからより専門性の高いアプリまで多様な能力をインストールしていきます。

「自衛官用の新しいOS」は、部隊での訓練を積み上げていくうちにバージョンアップを繰り返していきます。これが、自衛隊・自衛隊員が危機に対応できる基礎となるわけです。

今回は自衛隊員が身につける危機対応能力のうち、「メンタル」についていくつかご紹介します。日常生活においても、災害時においても冷静で的確な判断をするために効果的だと思います。