爆発寸前の爆弾を渡されても、爆弾からできる限り離れるか、人のいないところへ投げるかぐらいで、やれることは限定されています。どうしようもない状態になってから、報告を受けたり、対処方法を考えなければならなくなったりでは、誰がリーダーであっても緊急避難的な対応しかできません。

時間的な余裕と間合いがなくなればなくなるほど、選択肢もなくなっていくので、時間的に余裕があり、危険と離隔している段階で、未然に防ぐための対策を講じることが重要なのです。

戦闘では、頭の中が真っ白になったからどうしようもなかったでは済まされません。事前の予防措置、発生後の対応要領を日頃から身につけておくことが重要となります。

また、いざというときに備えて、自分だけに効く特定の行動、いわゆる癖(スイッチ)を訓練しておくのも手です。「深呼吸をして落ち着く」というように深呼吸という行動と心理変化を普段から練習してリンクさせておけば、追い詰められたときにも自分で回復のスイッチを入れられるようになります。

物事を好転させる「STOP」──止まる、考える、観察する、計画する

頭が真っ白になるときとは逆に、人は反射的な行動をとってしまうことがあります。それを防ぐためのキーワードが「STOP(ストップ)」です。

これは、Stop、Think、Observe、Planの頭文字をとったもので、反射的に行動を起こすのではなく、一度止まる、考えられる状況を作る(落ち着く)、周囲の状況を観察する、そして後の行動計画を立ててから行動する、というものです。

これにより二次災害を防ぐことができ、物事を好転させることができます。

アスファルトに感嘆符と黄色のパンプスを履いた女性の足元
写真=iStock.com/Valeriy_G
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心の澱を吐き出す「解除ミーティング」のすすめ

東日本大震災において、自衛隊は全力で災害派遣を実施しました。津波による大変悲惨な状態を目の当たりにし、活動する隊員は、PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)にかかる可能性がありました。

PTSDは、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、心のダメージとなって、時間が経ってからも、その経験に対して強い恐怖を覚えます。半年後や1年後に発病し、自らの命を絶つこともある厄介な心の病気です。

自衛隊では、災害派遣の間、PTSDを防止するため、現場で活動した隊員は一緒に活動したメンバーと5~10人のグループを作り、心の中のおりを吐き出すミーティングを行います。1人2~3分程度、「自分が無力であったこと」「ご遺体を見つけることができなかったこと」「辛かったこと・苦しかったこと」など、心に引っかかっているものをすべて、そのグループのメンバーに話します。ときには涙を流しながら話すこともありました。

これを「解除ミーティング」といいます。心の中に澱が溜まらないようにするミーティングです。この「解除ミーティング」によって、多くの隊員の心の健全性を確保することができました。心に溜め込むのではなく、吐き出して心に澱を溜めないようにすることが重要です。

もし、自分1人だけの状態で話せる人がいなかったり、周囲に信頼できる人がいなかったりした場合は、家族に電話をしてみるのがいいと思います。あるいは、文字として文章にしてみると、自分の心に刺さっているものを吐き出すことができます。また、筋トレやジョギングを40~60分程度集中して行うことで、気分をすっきりさせるという方法もあります。

それでも心の引っかかりが取れない場合は、カウンセラーに相談したり、心療内科へ行ったりすることをおすすめします。早ければそれだけ早く元に戻ります。