懐疑こそ人類の「バカ」化を押しとどめる唯一の処方箋
だが、昔から1日が24時間であることは変わらない。また人々の情報受容・処理能力が格段に進歩したわけではない。「短く、早く、合理的に」という当世の時代状況は、「長考」「熟考」を失わせ、間違った即断即決を惹起させかねない。当然、そこにデマがつけ込む隙を与える。「速読」や「効率的な勉強法」は、確かに生産性なるものを向上させるが、反比例して人々からリテラシーを奪っていくのではないか。
私はスローライフが良いと言っているのではない。人が有する1日の時間や、情報処理能力は昔から大して変わっていないと言っているだけだ。ある物事を長く観察し、長く考慮したならば、そこには懐疑や批判が生まれる。この喪失がデマをますます亢進させるのである。知性とは懐疑から始まる。懐疑こそ、人類の「バカ」化を押しとどめる唯一の処方箋でははないだろうか。そして懐疑のためには時間が必要である。生産性や合理性が政官財民から発せられるが、そこには「短慮」「即断」という名の悪魔が潜んでいることを忘れてはいけない。