まずは子育てとトレーニングの両立
アスリートとしての状態に体を戻すと同時に、母親としても成長しなければならない。新生児は生後3カ月ごろになると首が据わって動きも活発になり、4~5カ月ごろには離乳食も始まる。岩清水さんの場合は、復帰に備えて4カ月で母乳をやめ、ミルクへの完全切り替えを決断。離乳食も段階的に与えるようになった。その一つひとつを手探りで進めていった。
「母乳の量にしても、ミルクの量にしても、教科書はないですよね。自分が与えている量が十分なのか分からなくて困りました。そんな時にアドバイスをくれたのが友人。自分より少し前に2人目を生んでいた彼女は、少し先を行く先輩でした。使わなくなった赤ちゃん用の体重計を贈ってくれて、『赤ちゃんの体重が増えてるのなら大丈夫』と太鼓判を押してくれました。泣きやまなかったり、体調を崩したりしても、彼女に聞けば的確な指示をくれるのでホントに助かりました。早くから断乳してミルクへ移行した時も迷いはなかったですね」
その頃になると、ある程度の時間は子供がまとめて寝てくれるようになったため、岩清水選手もトレーニング時間をより多く取れるようになった。8~9月と、筋トレや有酸素系の運動も増やしながら体を戻し、10月には日テレのチーム練習に復帰。週1回からのスタートではあったが、実戦感覚を取り戻すことに努めた。
初めての離脱、完全復活は道半ば
12月の皇后杯(全日本女子サッカー選手権大会)での復帰を目指し、ゲーム形式のトレーニングにも短時間ながら参加を試みたが、体力的にはまだまだ。日テレは12月29日の同大会決勝で浦和レッズレディースを4-3で撃破。タイトルを勝ち取ったものの、34歳のベテランDFがベンチに入ることはなかった。
「長いサッカー人生の中で、幸いにして大きなケガをしたことがなかったので、これだけ長い離脱は初めてなんです。ブランクを経てピッチに立ってみると、スピード感覚が全然違いましたね。瞬発力や持久力もついていけないところがあります。実際のゲームに求められるレベルは非常に高いので、そこまでどうやって自分を引き上げるのかは本当に難しい。まだまだ道半ばという感じです」と、彼女は2021年を迎えた今も、完全復活の手応えをつかみきれてはいないようだ。
それでも女子サッカー界にとって今年は節目の年。9月に日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が発足するからだ。
名門・日テレはもちろん「オリジナル11」の中に名を連ねており、竹本一彦監督体制の下、新たなスタートを切っている。チームは5月8日のジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦から始まるプレシーズンマッチ4試合で試運転し、9月の本番に向かっていくことになるが、その頃までには岩清水選手も本来のレベルを取り戻したいと考えている。長男の1歳の誕生日である3月3日には、長年着けていた背番号を「22」から「33」に変更することを発表。「新たな自分を作っていきたい」と強い決意を口にした。