人を動かすのは「WHY→HOW→WHAT」

シネック氏によると、人の心を動かすことができる優れたリーダーや組織には、ある共通するパターンがあります。それは、物事の「伝え方」なのですが、優れたリーダーや組織は、物事を「WHY(なぜ)」→「HOW(どうやって)」→「WHAT(何を)」という順番で考えて、人に伝えるというのです。

一般的には、「WHAT(何を)」から伝える人が多いと思うのですが、それでは人の心に伝わる言葉にはなりません。私たちの心は、「何をするか」や「どのようにやるか」ではなく、「なぜそれをやるのか」を伝えられることで、相手の思いなどをより直観的に察知し、共感が生まれ行動を起こすのです。

ガラスのボードに、What Is Your Whyの文字を書いている
写真=iStock.com/IvelinRadkov
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「自分たちは、なぜそれをやっているのか」というメッセージが伝わるからこそ、人はあなたのメッセージや行動を支持したり、ファンになったり、商品を購入したりするのです。

シネック氏の講演をユーチューブで視聴していて、印象に強く残ったエピソードがあるので紹介します。

シネック氏が、マイクロソフト社とアップル社という2つの競合する会社のリーダーシップサミットでそれぞれ講演したときのことです。

マイクロソフトの幹部層の約70パーセントの人が、そのスピーチの持ち時間の70パーセント程度の時間を使って「アップルをいかに倒すか」について話していたそうです。つまり、「競合に勝つ手段」についての話が多かったのです。

アップルがマイクロソフトへの負けを素直に認める理由

一方のアップルでは、経営層の100パーセントの人が、100パーセントの時間を割いて「子どもの学習効率を最大化するために、学校の先生をどうやって支援するか」について話していました。

つまり、マイクロソフトは「競合他社にどう勝つか」、すなわち「HOW(どうやって)」に話題が集中していたのに対し、アップルは「私たちがこれからどこに向かうのか」という、「WHY(なぜ)」に話題が集中していたというのです。

シネック氏があるとき、アップルの社内でトップテンに入るような上級幹部とタクシーに一緒に乗っていた際に、彼をちょっと試すような質問をしました。

シネック氏は彼の方を向いて「私は先日、マイクロソフトのサミットで講演をしましてね。そのお礼に最新のタブレットをもらったんですよ。これが実は、お宅のiPod Touchと比べて何倍も優れていたんですよ」と伝えたのです。

彼はシネック氏の方を向き、「それは間違いないでしょうね」とだけ言いました。それでこの話題はおしまいになったそうです(笑)。

つまり、アップルは瞬間的に業界ナンバーワンになること、「WHAT(何を)」や「HOW(どうやって)」などには興味がないということを意味しています。その代わり「なぜそれをするのか」、「私たちはどこに向かうのか」に意識を強く向けているのです。