日本の農業を維持するには、なにが必要なのか。埼玉大学大学院の宮崎雅人准教授は「政府は農業の大規模化を進めようとしているが、間違っている。ほとんどの農家は、規模を拡大してもコストを削減できない」という――。
※本稿は、宮崎雅人『地域衰退』(岩波新書)の一部を再編集したものです。
農業の大規模化を進める農林水産省
前章では、地域衰退の現状と要因について、産業の動向を中心に検討を行った。1960年代から70年代にかけて農林業や鉱業といった基盤産業が衰退した地域で人口流出が進み、それにともなって小売業や個人向けサービス業も衰退した。
さらに、地域の高齢化率が著しく高まり、社会保障給付が医療・介護を中心とした地域の産業構造を形づくった。しかし、こうした産業は、基盤産業にはなりにくく、その地域の財政も厳しい状況にある。
こうした基盤産業と地域の衰退に対して、国はどのような取り組みを行ってきたのか。本章で見ていこう。
これまで国が行ってきた、基盤産業と地域の衰退に対する政策の多くに共通するのは、規模を大きくすることによって衰退を食い止めようとする考え方である。これを「規模の経済」的政策対応と呼ぶこととしよう。こうした政策の代表例として、農業の大規模化がある。農林水産省はホームページ上で子ども向けに大規模化のメリットを次のように説明している。