「鳥かご」を壊すきっかけ
しかし東日本大震災が彼の「鳥かご」を壊すきっかけとなった。福島県にあった病院から避難、転院先の病院でグループホームに通うことを勧められ、病院外での生活が始まったのだった。
61歳で完全に退院し、今では念願だった一人暮らしを送る。友人が泊まれるように布団を用意し、近所には一緒にカラオケを楽しむ仲間もいる。絵の展覧会も行ったばかりだ。時男さんの失われた青春は今、静かに営まれている。
「外に出たいかごの鳥 毎日えさをついばむ 可哀想だ しかし私もかごの鳥」。時男さんが入院していた40歳の頃に書いた「夢」という詩の一節だ。時男さんはこれまで自分の気持ちを詩や川柳にしてきた。言葉を紡ぎ発信することは入院中の時男さんと外界を結んだ。川柳は新聞にも載った。
自由に暮らす権利を侵害されたとし、時男さんは昨秋、国に3300万円の損害賠償訴訟(※)を起こした。裁判と向き合い、羽ばたきながら生きている。
※伊藤時男さんらは「call4.jp」で、この訴訟のクラウドファンディングを行っている。