ボリスが描くバラ色の未来

リモートで行われた国連の気候行動サミット会議でもボリスは似た内容のスピーチを繰り返し、アフター離脱、アフターコロナのイギリスはグリーン産業で大いに潤う、という図を鮮烈に描いて見せている。

「2030年のイギリスを訪れたと想像してください。今日、私が描いた多くのプログラムが完遂されていることでしょう。あなたはゼロカーボンの国産ジェット機で到着し、離脱後に発行される青いパスポート(EU加盟国時代には赤だった)かデジタルIDを読み取り機にシュッとかざしてから電動タクシーに乗るのです。(中略)そこでは20代から30代の若い世代の収入で家を買うことができ、学校の教育は素晴らしく犯罪率は低い世界になっています……」

と、バラ色の未来とは緑色の未来である、という話をえんえんと続けていく。

「歴史を振り返ると、戦争、飢餓、今回のような伝染病といった大規模な災いが過ぎ去った後、(社会は)元の状態に戻ってはいません。こうした出来事はたいてい、社会と経済の変化を加速させる引き金となるものなのです。なぜなら、私たち人類は単に修復を行うだけでは満足はしないからなのです」

ここまで聞いてなるほど、と思った。

目の前の悪戦苦闘状態にすっかりのみ込まれている国民の目を、ボリスはアフターコロナの近未来に向けさせようとしている。2030年にはまったく新しい社会が姿を現しているという理由は、パンデミックでそれまでの経済が崩壊しまるで焼け野原のようになり、いわば地ならしができたから、と言わんばかりの勢いだ。

ボリスの中でようやく、出口の見えない「コロナ禍」と自分が偉人として名を残すべき「未来」の位置づけがはっきりしたのではないか。勝つことにしか興味がない人物というのが事実なら、ボリスは自分が勝者になれると確信できるゴールが見えないと、ジャガノートとしての怪力と魔法の力を発揮できないのだろう。そのゴールが国民にとっても望ましい場合には、イギリスにとって最強のリーダーとなれる可能性があるわけだ。

しかし、どれだけの人がこのグリーン産業革命という気宇壮大なストーリーに乗って首相についていくのだろう。大量の失業者は財務大臣の解雇防止補償の恩恵も受けられず、クリスマスすらまともに過ごせそうにない人々の顔色はグリーンな未来どころか、今すでにもう緑色=グリーンになっている(英語では顔色が悪いことを青ではなく、緑と表現する)。