打ち出す施策がことごとく失敗
14兆円を投入して2021年には1日1000万件のPCR検査を行えるようにするという「ムーンショット作戦」案は、発表前にメディアによって達成不可能な目的と暴露され、激しい批判を浴びた。鳴り物入りでオープンしたNHSナイチンゲール病院は、重症者数が予想より少なかったことからほとんど使われていない。
新学期が始まると新入生用の大学寮でクラスターが発生し、入学そうそうに多数の学生が個室での自己隔離を命じられてしまった。また、児童や学生の公共バスの利用は高齢者を含む成人への感染リスクがあるとのことから禁止となったものの、各自治体はスクールバスを出すお金などないと反発。保護者が車で送迎するはめになり、通学時間にはとんでもない交通渋滞を発生させた。どこを見ても大混乱が起こっている。
さらに悪いことには、労働党のロンドン市長サディク・カーンをはじめ、コロナ禍は宿敵ボリスを引きずり下ろす好機とみた政党や政治家、EU残留派の公務員が組織の大多数を占める行政機関などが揃って、いけすかない離脱政府の指示なぞ素直に実行するものかという態度だ。
数々のコロナ政策は、このように政治的に複雑な理由も重なり現場での実施がうまくいかないことが多く、責任を追及されたのはもちろん首相だった。そして半年前に熱く盛り上がった国民の団結心はすっかりエネルギー源を失い、しらけてしまったようだった。
ボリスはなぜ変わってしまったのか
「別人」と呼ばれていることに気づいたらしいボリスは、10月にBBCのインタビューに応じた。その様子を伝えた新聞記事は、「去年の今頃はジャガノート(恐るべき突進力と破壊力、頑強な肉体を持つ超人間を指す)としか呼びようのない勢いですべての障害物をぶち壊して突破し、総選挙で圧勝し、(EUからの)離脱を果たし、冗談を連発しながらポジティブで楽天的なオーラを発していたのに、1年後の今は正反対で支援者にも見放されてきている」と、首相の変わりようを表現している。番組ではインタビュアーへの突っ込みも少なく、ジョークも出なかった。
コロナの後遺症に悩まされているのではないかという心配があるが……と聞かれると、「そんなのたわ言だ、でたらめだ、ナンセンスだ」と笑い飛ばし、「ボクは肉屋の番犬を何匹も合わせたよりも元気だよ」と健康問題を一蹴した。しかし「前よりおとなしくなったようだが?」には「こんな時におどけちゃいけないと思っているので……」と、以前には想像できない答えが。
最後だけ「わが政府はマニフェストから逸れるつもりはない。今は減速する時ではなく、加速する時なのだ!」と力強く言い放った。閣僚たちを叱咤激励するための一言だったらしいが、見ていた側は思わず「それって自分に向けて言ったほうがいいのでは?」とつぶやいてしまった。