2020年3月、コロナ禍のベルギーで緊急事態宣言を発出したのは、前年10月に同国初の女性首相となったソフィー・ウィルメス臨時首相だった(現在は副首相兼外務大臣)。それまではベルギーでもほとんど知られていなかった彼女だが、同年9月に臨時首相を降りて副首相になるまでのコロナ対応は高く評価された。ベルギー在住のジャーナリスト、栗田路子さんがリポートする――。
※本稿は栗田路子・プラド夏樹・田口理穂ほか4名による『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
人口あたりのコロナ死者数が世界最多に
3月の封鎖宣言後、ベルギーの感染状況は急激に悪化の一途をたどり、4月初めには、人口100万人当たりの死者数で世界トップに躍り出てしまった。
何事にも中庸で世界ランキングの上位に出てくることなどないベルギーが単位人口当たりのコロナ死者数でトップになると、市民は動揺して批判が高まり、報道陣は厳しく追及した。
専門家はこの追及に対して「死亡率の数え方はまだ世界で統一したルールはなく、ベルギーはWHOや欧州疾病予防管理センター推奨の方法をとっている」と説明した。つまり、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による死ではないと断定できない場合は全て、「コロナの疑い」としてコロナ関連死に含めていると説明したのだ。
PCR検査が間に合わない場合、老人ホームなど病院以外で亡くなる方が新型コロナウイルスに感染していたのかは確かめられない。これに加え、たとえ亡くなった方がコロナに感染していたとしても、それが直接死因かを断定するには、解剖などによる検証が必要になる。
そこでベルギーは、状況が落ち着いたら、過去のデータと比較して「超過死者数」からコロナ死者数を逆算して精査する方針をとるとした。周辺国に比べてあまりに多い死者数に、医療崩壊を恐れていた市民はこの説明を半信半疑ながら受け入れた。
ただこの頃は、老人ホームでのおびただしい死者数の増加とともに、非常事態で緊迫感が走る医療現場や専用航空機での患者搬送の様子が、毎日のようにテレビやSNSで伝えられていたため、市民の間の緊張がピークに達していた。