「イギリス・ファースト」を掲げるジョンソン
離脱派の勝利を受けて、当時のキャメロン首相が辞任を発表すると、次期首相にジョンソンを推す声が高まります。ところが、国を二分した国民投票でイギリスが大混乱に陥る中、ジョンソンは保守党党首選に名乗りをあげず、逃げるのです。ジョンソン側についた離脱派の人たちを裏切る行為でした。
尻拭いをさせられる形となったテリーザ・メイが政権を引き継ぎ、ジョンソンは外務大臣に起用されます。そして2019年7月、ソフトブレグジットに行き詰まったメイ首相が辞任すると、ようやくジョンソンが後任に就いたというわけです。
ジョンソン首相は、個性的な金髪や荒っぽい口調、「自国ファースト」の主張までもトランプ氏にそっくりです。イギリスはイギリスの国益を追求すべきであって、国益につながらないことにこれ以上お金を費やすべきではない。これが「イギリス・ファースト」を掲げるジョンソン首相の主張です。
ハードブレグジットを主張するジョンソン首相の強硬姿勢は、保守党内で大きな反発を招きました。強硬離脱を阻止しようとする反対派との攻防の末、2020年1月31日、イギリスはついにブレグジットを果たすのです。
保守党も労働党も「自国第一主義」に傾く
移民問題に端を発したイギリス国内におけるナショナリズムとグローバリズムの対立は、ナショナリズム側に軍配が挙がりました。ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」やフランスの「国民連合(RN)」のような第三極が生まれるのではなく、二大政党の一つがナショナリズムにぐっと傾いたのがイギリスの特徴です。
一方の労働党は、2010年にキャメロン保守党に政権を奪われて以降、原点回帰しつつあります。ブレア政権期にはアメリカにすり寄ってグローバリズムを標榜しましたが、保守党との対立軸が不明確となり、政権を失った以上、「もう一度、労働者政党という本来の姿に戻るべきだ」と、自国第一主義に傾き始めたのです。
この結果、労組出身の叩き上げ、最左派ジェレミー・コービンが党首に選ばれました。彼は移民受け入れが賃金を引き下げることを理解し、EUには懐疑的でした。
しかし、自由貿易を盲信する党内の多数派を説得できず、ブレグジットに対して労働党はふにゃふにゃした態度を取り続けたため、国民の支持を集めることができませんでした。
この点、うつろいゆく世論の機を見るに敏な保守党のジョンソン政権がハードブレグジットに完全に振り切ったのとは対照的でした。