2020年12月31日をもって、イギリスは正式に欧州連合(EU)を離脱した。人気世界史講師の茂木誠氏は、「ヨーロッパに深入りしない、介入しない、攻め込まない。これが、昔も今もイギリスの最大の関心事です」と説明する。イギリス史にみる、大陸の列強と対峙するための「島国としての生存戦略」とは――(第1回/全2回)。
※本稿は、茂木誠『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
大陸国家とつかず離れずの距離感
ドイツやフランスとともにヨーロッパの主要国でありながら、大陸国家とはつかず離れずの距離を取りつつ、独自の国家戦略を貫いてきた国があります。
それが、大陸から微妙に離れた位置にある島国、イギリスです。
島国であることの利点は、国境を接する国がないため、他国から攻め込まれにくいことです。ヨーロッパ大陸で戦争が絶えなかった時代を通して、他国から攻め込まれたことがほとんどないイギリスでは、独自の民族文化が発展しました。イギリスが世界中に植民地をつくり、「世界の工場」として君臨できたのは、大陸からの脅威に晒されず、余計なことにエネルギーを使わずに済んだからです。
ヨーロッパの紛争に巻き込まれることなく、大陸国家と適度な距離を保ちながら、いかにうまくつき合っていくのか。ヨーロッパに深入りしない、介入しない、攻め込まない。これが、昔も今もイギリスの最大の関心事なのです。
アメリカの「モンロー主義」の原型にも
そうした理由から、イギリスは1967年に発足した欧州共同体(EC)の創立メンバーに加わりませんでした。
19世紀のアメリカの外交姿勢は、ヨーロッパ諸国には干渉しない立場の「モンロー主義」を打ち出していましたが、モンロー主義の原型はイギリスにあったのです。日本もイギリス同様、典型的な島国です。イギリスの大陸国家とのつき合い方から日本人が学べることは少なくありません。