利益が上がるほど、スーツを着た人間が増える

経験豊富な工場の労働者たちは、ティーバッグをパッケージする作業をより効率的に行うために、巨大機械の効率性改善に取り組んでいました。その結果、生産高は向上して、利潤も上昇したそうです。

佐々木常夫『9割の中間管理職はもういらない』(宝島社新書)
佐々木常夫『9割の中間管理職はもういらない』(宝島社新書)

しかし、そうして得た余剰金を、工場の経営者たちはどのように活用したのか。

生産性が向上したことの報酬として、労働者の賃金を上げたのか。また、1人あたりの労働時間を減らすようにしたのか。ケインズの予測に基づくなら、そうすべきなのです。けれども、そうはしなかった。

経営者たちが行ったのは、中間管理職を設けて、新たに雇用しただけでした。

その工場には、もともと2人の管理職がいただけでした。それで回っており、十分な利潤を上げることにも成功したのです。しかし、利益が上がれば上がるほど、スーツを着た人間が増えていったそうです。

管理職がなければ必要なかった仕事が誕生

やがて、こうした管理職の人間は、数十名に膨れ上がり、彼らは、労働者を監視するために工場を歩き回って、評価基準を作ったり、計画書や報告書を作ったりと書類仕事に従事しました。

こうした仕事は、管理職がなければ本来はやる必要もなかった仕事です。結果、こうした管理職の人間たちが出したアイディアは、工場を海外に移転させることでした。グレーバーはその工場を案内してくれた人物の感想として、「なぜそうなったか。たぶんプランをひねりださないと自分たちの存在理由がなくなるからだろう」という推測を紹介しています。

まさに、管理職が「クソどうでもいい仕事(ブルシット・ジョブ)」であるその一例、と言えるかもしれません。