コロナ禍により、世界中のデジタル化が加速している。日本とアメリカで500社以上のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援してきたKaizen PlatformのCEO須藤憲司氏が、世界で起こっているデジタルの潮流が、何を中心に起こっているのか、どこに着目すべきなのか、中国の事例を基に解説する――。

※本稿は須藤憲司『90日で成果をだすDX入門』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

中国はどこへ向かっているのか

DXを志向するなら、デジタルを活用し、どのような体験が提供できるのかを考えなければなりません。ただ、私は全ての会社がいずれは顧客体験を提供する形に変わっていくと考えています。

「全ての会社」は、もちろん日本だけに留まりません。それを象徴するように、私が中国のある政府関係者から聞いた話を紹介しましょう。

「この先、世界はどこへ向かうのか」というテーマで話をしていたときのことです。彼は、現在は「移動コストが下がる技術」こそが重要であると言いました。中国が電気自動車へ大きくシフトしようとしているのは、石油を移動させることが非常に大変だからです。

パイプラインを引くのはもちろん、タンカーで輸送するにしても未だに海賊が出る。さらに、中国は国土が広いですから、運ぶだけでも大仕事。石油を全土に供給することは困難です。ところが電気は管理業務はあれど、電線を引くコストを考慮しても、ずっと安価に済みます。

キャッシュレス決済が発達している理由も同様です。現金は移動コストがずっと高く、発行するだけコストが付随してしまう存在です。データを扱う事業を「新しい石油だ」と表現するのも、データの移動コストが安いにもかかわらず付加価値が非常に高いからに他なりません。