ワクチンのコストも関心の的に

両者に共通するのは、超低温冷凍庫でない一般の冷蔵庫で扱えること、さらに1回の接種で効果を得られること。先行するファイザー社のワクチンより使い勝手やコストで勝るというのが売りだ。

両者がコスト優位を強調する背景には、昨年12月に各社のワクチン価格が思わぬ形で流出した一件がある。ベルギーのエバ・デ・ブリーカー予算相兼消費者相が、本来は非公開の各ワクチンの契約価格(1回分あたりオックスフォード/アストラゼネカ1.78ユーロ=約220円、ファイザー/ビオンテック12ユーロ=約1510円、モデルナ18ドル=約1870円など)を、うっかりツイッターで公開してしまったのだ。後発だけに「安価で安全」ということを訴求材料にするのは自然なことだろう。

思いのほか不評の政府広報ビデオ

イタリアのテレビでいま注目されているのが、政府が流しているワクチン接種推奨の公共広告だ。ビデオクリップの監督はジュゼッペ・トルナトーレ。80年代を代表するイタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した名匠である。

全4編のうち最初に公開された第1編は、老人ホームとおぼしき施設の広間が舞台。白衣姿の医療関係者が行き来する中、老女と娘らしき女性がビニールカーテン越しにハグをする。昨年、各地の老人ホームなどで実際にあったエピソードにインスパイアされたであろうシチュエーションだ。

ビデオの最後には、花のイラストとともにこんなメッセージが現れる。「イタリアは復活する。ワクチンという花とともに(“I'Italia rinasce con un fiore vaccinazione anti- Covid19”)」。ワクチンの有用性を訴えつつ、ワクチンに不安を抱く人々の思いにも寄り添う配慮が感じられるクリップだと筆者は感じたが、ユーチューブの首相官邸チャンネルでも公開されたこのイタリア語ビデオへの反応は、「いいね!」が1122に対して「よくないね!」が1.5万だった(1月28日現在)。

ワクチン接種への個人的な抵抗感か、あるいは政府の方針に対する政治的反発かはわからないが、巨匠を起用したキャンペーンはなかなか苦戦しているようだ。2月末から医療関係者、3月下旬から高齢者へのワクチン接種が始まると報じられている日本でも、同じようなことが起きるのだろうか。

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