問題はあるがありがたいイタリアの医療制度

順番待ちが長い、医師の当たりはずれが大きいなど、筆者や家族が経験してきたイタリアの医療に不満がないわけではない。それでも、滞在外国人も利用できる国民皆保険制度のおかげで、イタリア国民と同じタイミングでワクチン接種が受けられるのは率直にありがたいと感じる(別の話だが、コロナ給付金も支給された)。

軽症の場合は自宅待機となるのは日本と同様だが、PCR検査は日本よりもはるかに受けやすい。筆者の近所にも何人かいた自宅待機の感染者は、陰性になるまで1週間おきに検査を受けていた。

筆者には気管支拡張症という、悪化すると肺炎にもなる持病があり、昨年1月にこちらで肺炎球菌ワクチンの接種を受けた。その際に接した肺の専門医は「抗体はたくさんあるに越したことはない。ワクチンは打った方がいいと思う」と話していた。そうした経験もあって、個人的にはワクチンに対してはポジティブに受け止めており、新型コロナワクチンの接種についても、ホームドクターの判断に従うつもりでいる。

もし東京五輪が開催されれば、夏には仕事のために日本に行くことになるだろう。そのことを考えても、ワクチン接種は避けて通れなさそうだ。イタリアから日本のニュースをみていると、欧米に比べて新型コロナの犠牲者が極端に少ないことが、かえってワクチンで集団免疫を獲得することの必要性を実感しにくくしているように感じる。どうかするとヨーロッパより、社会活動の再開が遅くなるのではと心配だ。

厚生労働省の資料によると、日本でのワクチンの接種開始は欧米より2カ月ほど遅れそうだ。先行するイタリアでも、後述するようにワクチン接種はなかなか政府のスケジュール通りに進んでいない。果たして日本は、五輪開催までに必要なレベルの集団免疫を獲得できるのだろうか。

コロナ対応の医療関係者は優先接種

知り合いの医療従事者に聞いてみたところ、すでにコロナ患者に接する看護師や医者は優先的にワクチンを接種されたという。一方、同じ病院内でもリハビリ部門などのスタッフは後回しにされているとのこと。ミラノのコンピューター断層撮影(CT)検査センターの受付事務をしている友人は「ワクチン接種は医療関係者も義務ではない。アレルギーなどの不安を持つ人は拒否しているし、副反応の不安は払拭ふっしょくされていない」という。

しかしながら、イタリアでは昨年11月の時点で1500人以上の看護師が、また12月28日のデータでは273人の医師が、コロナ感染により命を落としている。すでにワクチンを接種した別の医療関係者の知人によると、彼女の病院では感触として医療スタッフの90%以上が接種しているだろうという(他人の接種の有無を口外するのは個人情報保護の観点から禁じられているため、はっきりしたデータは不明とのこと)。