「忘れ物をなくす習慣をつけさせたい」というベテラン教員の意見

関東地方の公立小学校に勤務する30代の男性教諭Aさんは「学校内でも教師の意見は二つに分かれますね」と指摘する。宿題に関わるものといえば、ドリル類と国語の教科書くらい。あとは学校に置いて帰っても全く構わないため、Aさんは児童が置き勉してもとやかく言わないそう。

怒っている実業家
写真=iStock.com/mmac72
※写真はイメージです

「かなりゆるくやっていて冬休み前もかなり置かせていったし、普段も宿題以外はけっこう置かせている」(Aさん)

だが、反対派の教師たちは「次の日の学習を用意する習慣がつく」と言って置き勉を取り締まるそうだ。

「学校という場所は、物をきちんと揃えることに美徳があり、忘れ物は悪だということがとても強い。だから忘れ物をしないトレーニングとして持って帰らせたい。それは大人になっても必要なことですので完全に悪だとは思わないんですが、じゃあそのために何キロもあるランドセルを持たせるのか? という思いがあります。でも、各校にいる古株の人が置き勉はいけないということを曲げない。若手教員たちも古株の人たちに抗ってまで置き勉推進をしようとも思わない、というのが現場の現状です」

都内の公立小学校で教鞭をとるBさんも同意見だ。

「子どもが置き勉する理由は、荷物が重くてしんどいこと以外に、置いて行けば忘れ物をしないからという理由があります。少なくとも、僕ら教師はそう思っています。したがって、忘れ物を無くすよう指導したい教師にとっては、置き勉は根本的な解決になりません。だから置き勉させたくないんでしょう」

他にも「机が重くなるから持って帰ってほしい」という教師側の希望もあるという。掃除の時に運ぶので、それで子どもがけがをした場合に教師の責任になるからだ。教科書とまぎれて、保護者宛ての手紙を持って帰らない懸念もあるという。

荒れた学校では生徒指導の一環として禁止されている

では、中学校はどうなのか。

昨年度まで首都圏の公立中学校に勤めていた40代のCさんは「いま思えば、自分たちの経験則で判断していたと思います。慣習ではありませんが、置き勉イコール“悪(ワル)”なイメージだった」と話す。自分たちも小中学時代は「荷物は持って帰れ」と言われ続けてきた。

そのような経緯もあり、中学の教師になったら生徒にこう言い続けた。

「置き勉なんてありえないぞ。自分の商売道具なんだから大切にしろ」

中学校になると、地域性でも対応が違ってくるようだ。

「若干荒れた学校だと、髪型や服装、靴や靴下の色などの規則が厳しいわけです。そうすると、学校の空気が生徒を取り締まる雰囲気になってきます。そこに、置き勉禁止も存在するわけです。教科書を全部持ち帰らせるのは、望ましいと思われる生活習慣の徹底のひとつだと言えます」

荒れた学校から、文教地区の落ち着いたエリアにある中学校に転勤したら、厳しい校則はなく、置き勉禁止などのルールもほぼなかったという。

「今までの子どもたちとのやりとりはいったいなんだったのか?」と思ったそうだ。