一番きつかったのは、X社で知りあったおじさんとのデート
7 知らないおじさんとデート
これが一番きつかったかもしれない。X社で知りあったおじさんと母が頻繁に会うようになり、なぜか私はそのデートに連れて行かれて、見たくないものを見せられた。今思い出しても吐き気がする。
8 家庭崩壊離婚
知らないX社おじさんと母がデートしてるのが気持ち悪すぎて、そのことを父に報告したらもう離婚ということになった。はぁ……ようやくこれで母のわがままに振り回されることがなくなるって思ったら、なぜか母に引き取られた。私の心は死んだ。
9 うまくいかないと八つ当たりされる
私は母のサンドバッグだった。母が勧誘に失敗したり、目標を達成できなかったり、X社のことでうまくいかないことがあると、汚い言葉を浴びせてきたり、物を投げてきたり、殴ったりしてきた。私には友達も頼れる人もほとんどいなかった。新しい友達を作っても、ぜんぶ母がぶち壊すことがわかっていた。私は絶望していた。
地獄の日々から引きずり出してくれた人
今、蜃気楼さんは25歳になった。
お母さんのいる実家には結婚してから一度も帰っていない。いまだにX社会員であるお母さんと、うまくコミュニケーションを取る自信がないからだ。「それ以前に、勧誘をされるかもしれない恐怖があるんですけどね」と言う。
「いろいろありましたが、今こうやって温かい部屋で冷静に過去を振り返る余裕があるのも、すべて旦那のおかげです」
蜃気楼さんには小学生の頃から好きだった人がいた。それが今の旦那さんだ。マルチ商法の地獄の日々から引きずり出してくれたのも旦那さんだった。
今は幸せと言う蜃気楼さんに、どういうところが? と尋ねると、作ったご飯を「おいしい」と喜んでくれたり、洗濯物や掃除に「ありがとう」と言ってくれるということだと言った。
「旦那と出会い、私は無償で人を思いやり行動するという本当の愛を知ることができました。母と一緒に暮らしていたときには感じることのできなかったことです。母だけではなく、マルチ商法の会員には絶対にできないことです。だからマルチ商法の会員の安っぽい言葉に惑わされないでほしい。『あなたのために』とか。『出会いに感謝』とか。彼らに人を思いやる心、感謝、優しさ、そういうものは一切ない。だから、彼らは人を平気で利用する。人を利用することに罪悪感もないから、残酷なことができる。それが我が子であっても」
「お子さんはいますか?」と聞くと、「まだいません。何年か先には子どもを産んで、母親になっているかもしれない」と言った。そして「母のようになりたくない。自分が小さいときにされて嫌だったことは絶対に子どもにしたくない」と力を込めた。