料理教室に行ったらトラウマが蘇ってしまった

現在は結婚し、お母さんと縁を切ったことで平穏な毎日を過ごせるようになった。だが、最近知りあって間もない友達に誘われた料理教室でX社の勧誘に遭い、当時の記憶が蘇ってしまった。それまで自分のなかに閉じ込めていた感情を蜃気楼さんはツイートしたのだ。

「料理教室で使われている製品、そして室内にあるものを見渡してみると、ひとつひとつに見覚えのあるX社のロゴがありました。その瞬間、すべてを悟り身構えました。料理教室に誘ってくれた友達は、すごく明るくて、めちゃくちゃいい子なんです。だから私の母のようになって将来をつぶしてほしくない。だけど止めることはできないこともわかっていました」

「止めることはできないことがわかっている」とは身をもって経験しないと出てくる言葉ではない。

芝生のうえで、ひとり膝を抱えて泣いている少女
写真=iStock.com/Hakase_
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「母がX社をはじめたきっかけは、母の弟、つまりおじさんからの紹介です。母はX社にハマるとすぐに、いろんな製品を買いはじめ、あっという間に家はX社製品で溢れかえりました。みんなを幸せにすると言い出し、ありとあらゆる知人への勧誘がはじまりました。すると生活も一変しました。家庭が崩壊し、母子家庭となり、借金に苦しめられる毎日がはじまりました。それでも母はX社をやめることはありませんでした。そのことで私自身が病んでしまい自殺を図りました。だから、このX社のロゴにはトラウマがあったんです」

「昔のお母さんが大好きでした」

マルチ商法をはじめる前のお母さんは家族想いの優しい人で、食事は魚や野菜が中心で家族の栄養にとても気をつかっていた。昼間は工場でパートをして家族を支えてくれていた、そう話す蜃気楼さんに、僕もハマる前の元妻のことをそんなふうに誰かに話していたことを思い出した。

「お母さんは明るくて素直で、もしかしてとても綺麗な人だったんじゃないですか?」と尋ねると、「すごい! どうしてわかるんですか?」と驚かれた。「美人かどうかはわかりませんが、声が綺麗で、よく絵本を読んでくれました、昔のお母さんは大好きでした! すごく明るくて、人のことを無条件で信じる、行動的な人でしたよ!」と懐かしそうだった。

「でも、X社は大嫌いでした。だからX社が大好きな母のことも大嫌いになってしまいました。もともと、父と母が仲良くしていた記憶があまりないんです。母がX社にハマってからは、あからさまに父へ厳しい態度を取るようになりました。特に怒りっぽくなったのはX社をはじめて間もない頃。X社にハマるほど、父への態度がキツくなっていく母が怖くて、私はずっと父と一緒にいました。父も家に居場所がなかったんだと思います。私と父はふたりでいろんなところに出かけました。映画館とか、喫茶店とか。それが母の目には、『父親の味方をする娘』と映り、気に食わなかったのか、徐々に私への風当たりも強くなっていきました」