「死ぬまで独身を貫くつもりですか?」に対する「未婚のプロ」の答え
失礼な話ではあるが、実際にお会いするまで、スーさんはきっと毒舌で怖い人なんだろうと想像していた。生活指導係の先生のように「そんな生き方はダメ!」と毒舌が飛んでくるのかと思っていたら、180度違った。こちらの話を表情一つ変えずに聞いてくれる。「ふん、ふん、そうなの。そんなふうに思うの?」。否定は一切ない。真っすぐな瞳で。まるでカウンセラーのようである。
「未婚のプロ」と名乗っていたスーさんに、私が一番聞きたかった質問はこれだった。
「本当に死ぬまで独身を貫くつもりなんですか。一生結婚しないんですか」
彼女の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「私は結婚するか、しないか、特に決めていない。決める必要もない」
まったくその通りだ。人生はどうなるかわからない。人生100年の時代に、自分の人生を30歳そこそこで決めてどうする。自然体でいいのだな。そんな安心感を与えてくれる言葉でもあった。
さらにスーさんはこう言い切った。
「結婚は人生をアップグレードするものではない」
これも効いた。冷酒のようにグラッと効いた。特に相手もおらず、やみくもに結婚したいと叫ぶ若い女性は、結婚すれば何かが解決すると思っている節がある。取りあえず結婚すれば、仕事のつらさから脱出できる。人生が好転する。そう思い込んでいる。しかし、現実はそう甘くない。
家庭という所属がなくても人生は楽しい
私はライターとしてこれまでたくさんの人に取材をしてきたが、スーさんの言葉は今でも心に残っている。7年前の言葉が忘れられないというのは、自分としては珍しい。取材をした時には、真意の分からない言葉もあった。しかし、今、ふとした時に思い出す。たとえば風呂でシャンプーをしているときに、彼女の声が頭の中に響くのだ。
現在スーさんは、Podcastでオリジナル番組「ジェーン・スーと堀井美香のover the sun!」を配信している。「オーバー・ザ・サン」という番組タイトルは、どことなく「オバサン」と響きが似ている。
番組では、オバサンであることを包み隠さない語りが楽しい。リスナーと中年女性ならではの日常を語り合い、相方のTBSアナウンサー・堀井美香のふんわりしたかわいらしい声が絶妙にマッチする。
この番組を聞いていると、「オバサンになっても人生って楽しいんだ」と希望に満ちてくる。スーさんは、結婚という家庭への所属がなくても、楽しい人生を送れることを、日本の女性へ教えてくれているようだ。