「その売却資金を銀行に送金しろ」

昨日あれだけ「最後のチャンスをお願いします!」と頭を下げた、社長とのやりとりを思うと、電話なんてできる気持ちではありません。ですが、どれだけつらかろうと担当者として、絶対に報告をしなければならない。

意を決して社長に電話をしました。「ツゥルルルル」という呼び出し音と、「ドクドクドクドク」という私の心臓の鼓動が共鳴します。

電話が繋がり、ロームの株が下がっていることを伝えると社長は、

「分かった、全部売却して、その売却資金を銀行に送金しろ」

と言いました。つまり、私との株取引をやめるという、死刑宣告です。私はこうして超大手のお客様を失い、翌月からまた新人と同じように新規外交をすることになりました。

まずは受付嬢を攻略する

最後に紹介したいのが「大物社長に真っ向勝負事件」です。

野村證券1年目のこと、お客様がだんだんでき始め、上司から「お前は富裕層をお客様にしろ」という指令が下りました。つまり大物を新規開拓しろということなので、資産家の大物社長を狙って優良法人にどんどん飛び込んでいくことになります。

でも、そういう優良法人というのは、パッと飛び込んで「社長さんいますか?」と言っても、受付が絶対に通してくれません。「本日、社長はいません」の一点張り。そういうマニュアルになっているのでしょう。

私がどうしていたかというと、社長宛に手紙を書き、受付のお姉さんに名刺を添えて渡していました。翌日、またその会社に行きます。手紙を置いて行ったからといって、もちろん通してはもらえません。で、また手紙と名刺を置いていきます。

これを50回以上はやったと思うんですが、そのうちに受付のお姉さんとはだんだん仲良くなってくるわけです。実際のところ7割くらいはウザいと思われていたでしょうが、「また来ちゃいました、テヘ」といった具合に振舞っていました。

そんなことを繰り返しているうちに、受付のお姉さんから社長の出社時間と退社時間をヒアリングすることに成功しました。何十回も名刺と手紙を渡してますから、私も「ここでケリをつけよう」と思い、社長と無理やりかち合うことを決意したのです。