8日間新規顧客が取れずウソの報告をしてしまう

野村證券の場合、新人にはそれぞれ教育係のような上司がつきます。その上司との取り決めで、毎日お昼に必ず電話をして、「(新規開設)できました」「できませんでした」という報告をするルールがあります。

飛び込み営業に出かける中、8日間くらい1件も新規開設が取れない、かなり不調な月がありました。「できなかったです」、「今日もできなかったです」と、毎日上司に報告することになるのですが、5日目を過ぎた頃から精神的に追い詰められすぎて、電話がしづらくなってきました。ただ、しないとまずいわけです。

7日目を過ぎた頃には、もう「新規開設できませんでした」と言えなくなってしまって、8日目についに「今日、新規開設しました」と電話で報告しました。

もちろんこれはウソ。ただ、報告をしたのはお昼なので、夕方に支店に帰るまで4時間あります。この4時間でなんとかお客様を見つけて、さっきのウソを本当にしようと、命がけで飛び込みをしまくりました。

ですが、結局、新規口座開設できずに、そのままタイムリミットを迎えたのです。

「お前、ほんまやな?」

野村證券では、お客様に書いていただいた口座開設用紙を直属の上司に渡すのではなく、総務課に提出して処理をしてもらうことになっていました。

つまり、実際に口座開設用紙を提出したかどうか上司は分からない。どのみち、2日後の集計に載ってしまうので、そこでバレてしまうのですが、今日のところはなんとかごまかせるかも、と私は考えました。

支店に戻ると、上司からの詰めが始まります。「やっと新規開設したな。お前、開設用紙は総務課に出したのか?」と。ここまで来たら、もう突っ張るしかありません。態度が大事です。

ですが、上司も鋭いので、「お前ほんまに、新規開設したのか?」「今から俺が総務課に内線して、確認するぞ」と、問い詰めてきます。

私は内心で「ヤバイ……」と思っていんですが、ここまで来たらイチかバチかで突っ張るしかないので、「大丈夫です、総務課に紙出したんで」と力強く答えました。

「お前、ほんまやな?」
「はい」
「お前、ほんまやな?」
「はい」
「お前、今から電話するぞ」
「出しました、大丈夫です」

と、問答は終わりません。

そしてついに、上司が受話器に手をかけて内線番号を押す瞬間に、私は

「すんません、開設してません」

と折れてしまったのです。結果、上司はブチ切れ、ゴリ詰めに合いました。

部下に叫ぶ上司
写真=iStock.com/Minerva Studio
※写真はイメージです

「そんなしょうもないウソつくな、アホちゃうか」と思われるかもしれませんが、当時のプレッシャーや追い込まれ方は半端じゃなかったんです。

今でこそ、そんなことしてもなんの意味もないと分かりますが、とことんプレッシャーをかけられると人間はこうなってしまう。まあ、そういう追い込まれ方を毎日していたということですね。