すぐに結果を出さなければ、次はない

次の失敗エピソードは「ローム一点張り事件」です。

野村證券2年目を迎え、ある程度お客様ができて、毎日株取引などをやり始めていた時の出来事です。

私の2年目のノルマの半分以上を担っていたくらい、頻繁に取引をしてくださっていた大事な資産家の社長さんがいたのですが、ある月に、私の銘柄選定やタイミングのミスで5回連続で損をさせてしまいました。

そうなると、さすがの社長も萎えてきます。私も内心「まずいなぁ」と思っていたんですが、社長から電話がきて「最近、失敗しすぎだ。お前と株取引をしても損するばっかりだから、もうやめるわ」と言われてしまいました。

路上の階段に座り込んで頭を押さえる日本人ビジネスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

大ピンチです。ノルマの半分以上を失うわけですから、とんでもないことになってしまいます。どうにかして結果を出して、社長からの信頼を回復しないといけません。

電話を切ってすぐ、速攻で社長に会いに行きました。社長はもう半分キレている状態でしたので、このままだと離れていってしまいます。だから私は、

「社長、最後にひと勝負させてください! 私も死ぬ気で儲かりそうな株を見つけるので、それで損をしたら、私を切ってください!」

と、頭を下げたんです。社長は「これで本当に最後だからな」と、言ってくれました。

これが本当に最後の最後の最後だと思っていたので、私は死ぬ気で上がりそうな株を調べました。中長期で次第に上がるなんて悠長なことは言ってられない。

もう今日明日で短期的に儲かって、分かりやすい結果を出さないと、未来はない。いろんなところから情報を取って、どの株が上がるか必死で調べた結果、一つの銘柄を見つけました。

それが「ローム」という会社の株でした。当時、電子機器バブルというのがあり、関連銘柄が上がっていたので、もう「ローム」に賭けるしかないと考えたわけです。

大口顧客の5000万円を一点張りして惨敗

翌日、社長に電話をして、

「このロームの株がダメだったら、その時は私を切ってください。その覚悟で銘柄を選びました」

と伝えると、社長は

「分かった。俺が持ってる株を全部売って、そのロームに一点張りしろ」

と言いました。金額はゆうに5000万円を超えていたと思います。

このロームの株が上がるか下がるかで、社長との取引が続くか終わるかが決まります。なので、株を買った後は、もちろんパソコンの前から動けなかった。よく馬券を買ったおっさんが「行け~!」と叫んでますが、本当に命がかかってる時って、あんなもんじゃないんですよ。無言のままチャートを見つめて念じるしかない。声が出ないです。

「頼むから上がってくれ」
「これで下がったら終わりや」
「俺の証券マン人生、ロームの株にかかってる」
「あがれ〜!」

ずっと念じていたのですが、買って30分後くらいに、ロームの株はビューっと下がっていきました。

パソコンの前で自分の呼吸が荒くなり、息苦しくなってくるのが分かりました。地上4メートルくらいの場所なのに、高山病にかかったような……気持ちは標高2000メートルいってるんちゃうかというくらい、呼吸がどんどんどんどん速くなります。その間も株はどんどん下がっていく。

そんな局面でも、社長に報告をしなくてはいけません。つまり「ローム、下がってます」と伝えるわけです。