恣意的に権力を行使する警察

【藤井】店舗型の性サービス店は、もう歌舞伎町にはないんですか。

パトカー
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【中村】まったくないわけではなく、一部の老舗は残っています。たぶん、警察との関係で摘発や営業停止を免れたのでしょう。吉原とか飛田新地などの歴史的な風俗街は壊滅的な摘発はされません。

それは歴史的に認めてきたのと組合が強いからで、警察と交渉できる関係性がある。組合は摘発を免れる代わりに、上の言うことは聞きます、という姿勢なので、今回の休業要請もいち早く応じていました。

【藤井】限定したエリアだけは一応許すという形、行政裁量なのですね。これがあるから治安の問題は厄介ですね。法律と警察権力とは区別して考えなくてはいけません。

法律違反をしていなくても、警察は簡単に嫌がらせをすることができる。逆に法律違反をしていても、警察は目をつむることができる。実はこれは非常に怖いことなんですけどね。治安を維持するために権力は、法律に縛られつつも、それを超えて行使されることが多々ある。

【中村】今アメリカで起きている反人種差別運動のきっかけとなった黒人を逮捕して路上で首を長時間圧迫して殺してしまった事件も、非常に恣意的な警察権力の適用でしょう。

法律を逸脱しても市民は黙認

【藤井】身体的拘束を受けるのはほとんどが黒人。何が起こるかわからない実際の取り締まりには、治安当局の裁量によるところが大きくなる。そのため、法律を逸脱するケースも当然出てくる。

それでも、市民は黙認しがち。治安が悪くて危険なのは嫌だから仕方がない、と。治安の強化っていうのは、ネオリベを推し進める政府や一部のエリートだけが望んでいるのではない。社会自体もそれを受け入れていくというところに問題がある。

治安悪化はみんな体感していることなんですね。たとえば貧困問題を放置しているせいで路上にホームレスが増えていると、なんとなくみんな不安になる。

見えなくしてくれということで、ホームレスの排除が始まる。でも、それではなんの解決にもなりません。

【中村】先日、新宿を歩いて驚きましたが、ホームレスが明らかに増えていますね。東京にホームレスがたくさんいた90年代以前に戻りそうな雰囲気がある。新宿には高齢女性のホームレスも複数いました。嫌な予感がします。

【藤井】雇用が不安定で住む家のない若者たちはネットカフェに行き、不愉快な現実が見えなくはなっていた。見えていれば、彼らのことも排除しろという話になっていたでしょう。

ところがコロナ禍でネットカフェが使えなくなった今、彼らだって路上に出てくる可能性がある。つまり、警察の取り締まり強化は社会が求めた結果なのです。

ホームレスの例は典型ですが、路上生活者がいると何をされるかわからなくて嫌、という市民の身勝手な妄想が警察を動かしている。お互いが支え合うのです。