私の家族観を変えたのが、写真家の幡野広志さんとの出会いでした。彼にこう言われたんです、「奈美ちゃん、家族は選べるんだよ」と。つまり、自分がこの人が大事、家族だ、愛情を注げる人だと思ったら、それは家族ということです。逆にこの人は、血縁上は親だけど、この人といたら自分は苦しいとか、つらいとか、嫌なことばかり思い出すという相手とは距離をとってもいい――。
家族という定義で参考にしたいのがNASAです。宇宙飛行士がロケットで月に行くときに、それを見守ることができる特別室というのがあります。そこに入れる家族として、NASAが定めるのは、親や兄弟といった血のつながっている家族ではなくて、自分が選んだパートナーと、その子どもと、その子どもが選んだパートナーまでなんです。
トランスジェンダーを番組に呼んだ日のこと
【乙武】なるほどね。ちなみに、その考えに接して、岸田さんはどう変わったの?
【岸田】私も、家族に障害があって、「すごく大変だね」と言われるんです。さらに「岸田さんは、障害がある家族がいるからこんなにしっかりしているんだね」「家族の面倒見て偉いね」とも。そこに違和感を覚えていました。現在は胸を張って「違う」と言えます。
たまたま家族に障害があっただけです。そして家族だから愛したわけではない。人として、血のつながり以前に私がめちゃくちゃ愛情を注げるから、この人たちを私は胸を張って「家族にしよう」と。そう思って選んだ結果、いまの私があるんだということに気づけました。
そのときと同じ感触を、この本を読んだときに抱きました。血のつながりとか、性別による法律婚とかじゃなくて、愛情を注ぐことができればそれは家族なんだと。
【乙武】詳しくは読んでもらいたいけど、いまの話は、『ヒゲとナプキン』の主人公たちの最後の選択に関わっている話だね。
今回の小説の主人公・イツキには、モデルがいます。杉山文野というトランスジェンダー活動家です。文野は、女性として生を享けたけど、現在は男性として生きている。
こないだ文野を、僕のYouTubeの番組に招いたんです。そこで文野がいま一緒に暮らしてるパートナーの説明をするために、「文野のパートナーはいわゆるストレートで、LGBTQの非当事者なんだよね」という言い方をしたら、文野が「うーん」となったんですよ。そしてこう語ったんです。