選ぶ基準は「自分の悩みと共通点があるか」

【乙武】うれしいなあ。ありがとうございます。今日は、ぜひ岸田さんにお願いしたいと思っていたことがありました。

どうしても、この『ヒゲとナプキン』が何かに紹介されるときは、「LGBTQ小説」という書かれ方をするんですよ。主人公のイツキはトランスジェンダーという境遇だし、その境遇にまつわる苦悩がストーリーの軸になっているので、そう紹介されることになんの違和感もない。

一方、「LGBTQ小説」とうたわれてしまうと、それだけで敬遠されてしまうということも事実です。LGBTQに興味がなくても、「こういう人におすすめだ」というあたりを語っていただけると、めちゃくちゃうれしい。いきなりで申し訳ないんだけど。

【岸田】お任せあれ。なんでもしゃべれる。私はぱっと出たお題で大喜利ができる女なんです(笑)

【乙武】お願いします!

【岸田】私は、人が本を選ぶときの基準は、自分の日常の悩みと共通点があるかということだと考えています。ですので、「LGBTQ小説」と言われてしまうと、LGBTQの当事者の方、もしくは周囲にそうした方がいない場合、自分には関係ないと思う方がいると思います。

乙武洋匡氏
写真提供=小学館
乙武洋匡氏

どんなしがらみがあっても愛情を注けば家族になれる

【岸田】それ、残念ですよね、私はこの本のこと、新時代の家族の本だと思っています。家族のことでちょっと悩んでいるとか、結婚をされて新しい家族を大事にしていきたいとか、もしくはちょっと孤独を感じていて、家族にも理解されないという悩みを感じてる人に、ぜひとも薦めたい小説だと思っています。

それがなにかといえば、イツキは、トランスジェンダーじゃないですか。つき合っているパートナーと結婚をするという話があるんですけど、結婚するためには家族の理解とか、性転換の話とか、たくさんのハードルがあるわけです。

しかし、最終的にハッピーエンドなんです。ネタバレになるから詳しくは言えないけど、家族のあり方に結論がついていて、それが「愛」なんです。

「家族、それはすなわち愛」。どういうことかというと、血がつながってるとか、法律上どうとか、そんなことは関係ない。大事なのは愛情を注ぐこと。それを貫くことができれば、いくらだって“家族”になれるというのが、この本のメッセージなんです。

【乙武】おお、その通り。

「家族は選べるんだよ」

【岸田】家族とは血のつながり、もしくは男性・女性で法律婚をするということだと思っている方々。いや、私もそうだったんです。私自身、その家族のあり方にこの数年めちゃくちゃ悩んでいました。