「トランプ嫌いが圧倒的多数」は逆だった
ただ、この点についてはメディアではさほど伝えられていないことがある。それは、ヒラリー氏がもともと米国民に嫌われていたということだ。既存メディアだけを見ていると、トランプ嫌いが圧倒的に多いように感じただろうが、実際は逆だった。メディアがトランプ嫌いを増幅させる一方で、SNSではヒラリー嫌いが増幅されていた。SNSには「トランプが自分たちの言いたかったことを代弁してくれる」と溜飲を下げた庶民がかなりいたのである。
トランプ氏ほどあからさまな罵倒をテレビやSNSで展開するような大統領候補はこれまでいなかったが、それを痛快な思いで見ていた米国民は思いのほか多かったのだ。それは、トランプ氏が庶民の気持ちを肌感覚で理解していたからだ。
トランプ氏は大統領選に当選した直後に、自らニューヨーク・タイムズ本社を訪問して和解を呼びかけている。「米国を愛する気持ちは同じなのだから、協力できるところは協力しよう」というトランプ流の合理主義から出た行動だった。だが、ニューヨーク・タイムズ側はまったく聞く気はなかった。それ以降、米国を分断したのがトランプ大統領ではなくメディアであるのは、このことからも明白だ。
「フェイク」とののしり合う全面対決
既存メディアが自分と敵対することを悟ってからは、トランプ大統領はツイッターをフル活用して、メディア発表の前にツイッターで発信するようになった。そのため、大手メディアもトランプ大統領のツイートを紙面で発表するというSNS優位の逆転現象が起こることとなった。
ここから、トランプ大統領と既存メディアがお互いを「フェイク」とののしり合う、全面対決となり、米国の分断が進んでいくのである。
この対決は圧倒的にトランプ大統領優位で進んだ。それはトランプ大統領のツイートが抜群に面白いうえに、大統領らしからぬ易しい英語で書かれていたからだ。それまで政治に無関心だった人たちが、トランプ大統領のツイートを通して政治に関心を持つようになった。新聞の長くて難しい記事を敬遠していた人たちも、トランプ大統領のツイートは好き嫌いにかかわらず読んでいる。「大統領らしくない」大統領を庶民は歓迎し、メディアやエリートたちは嫌悪した。
だが、どちらの数が多いかを考えると、少なくとも「再選」に近づくという面では適切だったと言える。多くの人たちが「大統領らしさ」より「共感」を求めていた。