当時から、北部にはごく少数ながらも一人として人口に数えられる自由な黒人もいた。

つまり、アメリカ合衆国の黒人奴隷制度は建国の理念からしても、廃止されて当然のものだった。だがこの現実を受け入れられない人々は、今も多数残っている。そしてそういった人たちの存在こそが、米国に黒人差別が根強く続いてきた原因となってきた。

バイデン候補の「Unite」という言葉の目的の一つは、この人種や性差、宗教などの壁を乗り越えようというものだ。しかし彼は「俺に投票しないやつは黒人ではない」と語ったように、彼自身、身体にしみ込んだ差別感覚は死ぬまで消えないのかもしれない。

米国は黒人を「奴隷ではない存在」として扱ったその日から、アメリカ合衆国の理想と人種差別を抱える現実のギャップという苦悩を持ち続けることになった。そしてそれは、「Unite」と叫ぶだけでは解消しない。

民主党と共和党の政治的な分断を表す赤と青の議事堂
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分断を浸透させた「9.11」と「オバマ政権」

米国が二大政党制を敷く以上、両党間の政治対立が存在するのは当然と言える。しかし、合衆国憲法は大統領と議会の権限を定めており、今ほど両党間のいがみ合いとも言えるような対立が激化することは、想定していなかったはずだ。しかも分断が騒がれる直前の1990年代には、民主党と共和党の政策面での共通性を懸念する見方もあったほどだ。

この構造を変えて分断を浸透させたのが9.11のテロであり、オバマ政権の誕生だった。

9.11のテロでは、共和党のブッシュ大統領が呼びかけたアフガニスタン攻撃やイラク戦争の開始に対して、バイデン候補やクリントン元国務長官など民主党の多くも賛同した。ちなみに平和主義者であるサンダース上院議員が、バイデン候補など民主党の中道派を嫌う理由はここにある。

ところが超党派で始めた戦争も、泥沼化するとともに両党の思惑が分かれていった。

例えばオバマ政権は、「悪の枢軸」と呼ばれたイランとの融和を模索し、トランプ政権で再び対峙するという二度の「180度政策転換」が行われた。

オバマ大統領の誕生前は、ニューヨーカーのようなリベラル系の雑誌でも、「黒人」が大統領となった場合の懸念について書かれた記事が掲載されていた。日本における「黒人のオバマ大統領が、米国の分断の原因となった」といった見方も、米国メディアの受け売りなのだと私は感じている。

しかし仮に、オバマ大統領が米国の分断の原因を作ったなら、それは世界平和が実現可能であると考える彼の理想の高さが原因なのであり、その達成に向けた実行力はあったと評価すべきだろう。